春陽は、声のする方へと顔を向け、そして石段の上にいるアイツを見つけてしまったようだ。
ヒマワリの黄色よりも、タンポポの綿毛に近いくらいの髪の色。
白いTシャツに、ベージュのチノパンにサンダル姿。
まるで家の近所を散歩するように、ペタペタと石段を下って、こちらにやってくる。
『春陽、そろそろ帰ろうよ? パパが心配してるかもしれない。ママのことも心配だし』
いきなり帰りを急かし始めた私を訝し気に見る春陽は、マルが目の前まで降りてくるのを待ってペコリと頭を下げた。
「先日はありがとうございました。夏月のために、来ていただいて」
春陽は、マルが来たことを覚えていたようだ。
まあ、見た目も印象深いヤツだし、あれだけ春陽のことガン見してたら、嫌でも覚えてるだろう。
「長野からだっけ?」
「はい、夏月から聞いてたんですね」
よく見たらマルの手には、向日葵の花束が握られている。
それに気づき、春陽が一歩下がると、先に並んでいる献花の横に、自分の持っていた花束を置き、マルは手を合わせている。
『なんで、来るかな』
「そんな言い方ないでしょ、夏月のために来てくれたのに」
マルには聞こえないように、春陽は小さな声で私を諭す。
「暑いでしょ、東京」
立ち上がったマルは日傘の下の色白の春陽を心配しているようだ。
私には一度もそんな言葉かけてくれたことがない。
まあ、いいけどね、女子扱いなんかされてなかったですし?
私もマルのことなんか微塵もそんな目で見たことありませんでしたし?
「ビックリしました。毎年どんどん暑くなってるのはニュースで知ってましたが、こんなにもなんて。長野も暑いけど、湿気はなくて」
「だよね。あ、しばらく、こっちにいるの? えっと」
「春陽です」
「そうだ、春陽ちゃんだ。夏月に聞いたことがあったわ。双子なのに誕生日違うんだって?」
「はい、私が五月四日で、夏月は五月五日。五月五日は立夏といって夏の始まりだから、夏月になったんです。私は春の終りだから、春陽に」
名付け親のパパが話してくれた名前の由来を黙って聞いていたマルは、そっか、と静かに微笑む。
「どっちかつうと春陽ちゃんのが妹キャラだよね、アイツ面倒見がいいから」
「よく、言われてました」
「あ、ごめん。そんなつもりじゃなくて」
「え?」
「別に春陽ちゃんが頼りなさそうとか、そういうんじゃないから」
言えば言うほど、焦るようで本当に額から汗が垂れたマルに春陽はクスクス笑った。
「夏月のこと、よく知っててくれる人がいて、嬉しいです」
笑っているんだけど、泣いているみたいに見えた春陽に、胸がズキンと痛んだのは私だけじゃなかったようだ。
ヒマワリの黄色よりも、タンポポの綿毛に近いくらいの髪の色。
白いTシャツに、ベージュのチノパンにサンダル姿。
まるで家の近所を散歩するように、ペタペタと石段を下って、こちらにやってくる。
『春陽、そろそろ帰ろうよ? パパが心配してるかもしれない。ママのことも心配だし』
いきなり帰りを急かし始めた私を訝し気に見る春陽は、マルが目の前まで降りてくるのを待ってペコリと頭を下げた。
「先日はありがとうございました。夏月のために、来ていただいて」
春陽は、マルが来たことを覚えていたようだ。
まあ、見た目も印象深いヤツだし、あれだけ春陽のことガン見してたら、嫌でも覚えてるだろう。
「長野からだっけ?」
「はい、夏月から聞いてたんですね」
よく見たらマルの手には、向日葵の花束が握られている。
それに気づき、春陽が一歩下がると、先に並んでいる献花の横に、自分の持っていた花束を置き、マルは手を合わせている。
『なんで、来るかな』
「そんな言い方ないでしょ、夏月のために来てくれたのに」
マルには聞こえないように、春陽は小さな声で私を諭す。
「暑いでしょ、東京」
立ち上がったマルは日傘の下の色白の春陽を心配しているようだ。
私には一度もそんな言葉かけてくれたことがない。
まあ、いいけどね、女子扱いなんかされてなかったですし?
私もマルのことなんか微塵もそんな目で見たことありませんでしたし?
「ビックリしました。毎年どんどん暑くなってるのはニュースで知ってましたが、こんなにもなんて。長野も暑いけど、湿気はなくて」
「だよね。あ、しばらく、こっちにいるの? えっと」
「春陽です」
「そうだ、春陽ちゃんだ。夏月に聞いたことがあったわ。双子なのに誕生日違うんだって?」
「はい、私が五月四日で、夏月は五月五日。五月五日は立夏といって夏の始まりだから、夏月になったんです。私は春の終りだから、春陽に」
名付け親のパパが話してくれた名前の由来を黙って聞いていたマルは、そっか、と静かに微笑む。
「どっちかつうと春陽ちゃんのが妹キャラだよね、アイツ面倒見がいいから」
「よく、言われてました」
「あ、ごめん。そんなつもりじゃなくて」
「え?」
「別に春陽ちゃんが頼りなさそうとか、そういうんじゃないから」
言えば言うほど、焦るようで本当に額から汗が垂れたマルに春陽はクスクス笑った。
「夏月のこと、よく知っててくれる人がいて、嬉しいです」
笑っているんだけど、泣いているみたいに見えた春陽に、胸がズキンと痛んだのは私だけじゃなかったようだ。