「離れて暮らしたって、私はパパのことも春陽のことも大好きだよ。でも、パパには春陽がいるでしょ、だったらママには私がいなきゃ! 三対一なんて、悲しいよ! ママを仲間外れにしないで」
「なっちゃん……、ママ……」

 春陽が嫌だと首を振って泣いている。
 だけど、パパの説得にも応じないでいた私の考えに、ようやく春陽は理解して、静かにつぶやいた。

「時々、なっちゃんやママとも会える?」
「春陽……」
「会いたいの、ママに」

 春陽の声に顔をあげて、振り向いたママが手を広げる。
 泣きながら春陽はママの胸の中に飛び込んだ。

「ごめんね、春陽。本当にごめんね。一緒にいてあげられなくて、ごめんね」

 ママの大きな泣き声に負けないくらい私も泣いて、パパの側に行く。

「私もパパや春陽に会いに行ってもいい?」
「もちろん、いつだって来てもいい。パパだって仕事で東京に来たら必ず夏月の顔を見に来るから」

 泣き顔のパパが私をギュツと抱きしめてくれた。
 リビングの真ん中で割れている額縁は、中の写真まで破れている。
 それが、パパの前に座る春陽と、ママの前に座る私とのちょうど真ん中で破れていて、まるで私たち家族の未来を予言しているみたいだった。
 だけど、この先家族が二つになってしまったとしても。
 私たちはパパとママの子であることに変わりはないから、これからもずっと家族だからと四人で抱きしめあって泣いた。
 そして夏休みと同時に、春陽はパパの実家であるおばあちゃんの家に引っ越して行った。
 引っ越しの日までママは仕事で、私は学童に向かって学校へ。

「じゃあね」

 と春陽に泣き笑ったら。

「じゃあね、秋の連休にね」

 一度だけ抱きしめあって春陽と離ればなれの日々が始まったのだった。
 ママっこになった私とパパっこになった春陽。
 だけど、離れていたってずっと繋がっていた。
 春陽の気持ちは手に取るようにわかっていた、はずだった。
 だけど、それは中学生になる頃までのこと。
 お互いの悩みも環境も変わってしまって、そうして春陽はポツリと呟いた。
――夏月はいいよね――
 何の気なしに言ったのかもしれない。
 だけど、その言葉はそれから私と春陽の間に見えない壁を作ってしまったんだ。
 似て非なる私たち、鏡の向こうとこちら側で、互いの環境を羨んでいたのだと思う。