「でも、それは春陽が元々小さく生まれたのもあって」
「そうよ、春陽を小さく生んでしまったのは私だもの。でも、夏月は元気に生まれたのに。どうして? 双子のはずなのに? そう思ってしまってるの。春陽のこと、可愛くないわけじゃない。いつか、きっと少しずつ健康になるだろうって、そう願ってるけど。この間みたいに、私だって大事な仕事がある時に、あんな風にまた熱を出されたら……、春陽のためだけに長野に行くのも、嫌なのよ」
「仕事は、少し休むとか。君なら優秀だし、きっと長野の銀行でも雇って」
「そういうことじゃないの! 私は今の会社で働いてきたの。あなたと出逢う前からずっと働いてるのよ。辞めたくなんかない」
「子どもより仕事の方が大事だと、そう言うのか?」
「ほら、また繰り返し。もう、いいの、何回話し合ったって同じ。私の気持ちなんか、あなたに伝わるわけない。いいよ、行って? 長野でも、どこでも。私が、あの子たちを捨てるの。家族じゃなくなれば、遠慮なしに長野に行けるでしょ? 春陽も夏月もあなたにあげる」

 ママに捨てられる、私のせいで家族がバラバラになっちゃう。
 ダメだよ、そんなの絶対にダメ!!
 どうしたら、どうにかしなくちゃ!

「なっちゃん?」

 春陽の呼びかけに応えることなく、私は立ち上がり、階段を降りて、パパとママのいるリビングのドアを大きく開けた。

「夏月……、どうした? 眠れないのか? 春陽まで」

 私の背中に隠れるように春陽も一緒についてきた。
 覗いたリビングの真ん中で、入学式の時に記念に写した家族写真のガラスの額縁が割れていた。
 手から血を流しているママが、気まずそうに私たちに背中を向ける。
 その背中が小さく振るえていたから、私は決心を固めた。

「パパ、私長野には行かない」
「え?」
「夏月?」

 突然そう宣言して私は、ママの側に行きその背中にピッタリ張り付いた。

「春陽だけ連れてってあげて、パパ! 春陽の喘息には、長野の方が空気がいいんでしょ」
「夏月? 意味がわかってるのか? ママのところに残るってことは、パパや春陽と離ればなれになるってことなんだよ?」
「でも、それじゃママが一人ぼっちになっちゃうもの。ママ、本当はね、すっごく寂しいんだよ」

 ママの背中が大きく震えて、泣き声が聞こえてきた。