春陽はすぐに救急車で病院に運ばれて、数日入院をすることになった。
 ママは、昼頃から仕事のために春陽を置いて家を留守にしたのだ。
 春陽の熱がそれほど高くはなかったことから大丈夫だと思ったらしい。
 けれど、春陽はママがいなくなってからすぐに喘息の発作を起こして、私たちが帰ってくるまで一人で苦しんでいたのだった。
 ママは泣きながらパパに謝っていた。
 だけどパパは春陽を一人にし、危険な目にあわせたママを許さなかった。
 春陽が退院するまで、夜になると二人のケンカの声が聞こえてきていた。
 ママは泣きながら「じゃあ、もういいわよ。悪いのはいつも私! 春陽の身体を弱く生んでしまったのも私だもの」とヒステリックに叫んでいた。
 そんなある日、学校から帰ってきた私にパパが言ったのは。

「夏月、長野のおばあちゃんの家で暮らさないか?」
「おばあちゃん家?」
「長野はね、空気がとってもいいんだ。きっと春陽の喘息も少しずつ良くなるし、夏月も長野が好きだろう?」
「長野……、おばあちゃんと一緒なのは嬉しいけど、転校するんだよね?」
「うん、でも、ホラ。春陽と一緒なら平気だろ?」

 春陽の笑顔を思いだして、ウンウンとうなずきながら、ふと不安がおそってきた。

「ママも? ママもだよね?」

 パパはそっと私から目を反らして。

「ママのことは、これから説得するよ」

 そう寂しそうにつぶやいていたけど、きっともうその時にはパパとママの離婚は決まっていたのかもしれない。

「なっちゃん、一緒に寝ようよ」

 退院した春陽から笑顔が消えて、寂しそうな顔をするようになったのも、この頃だ。
 パパは春陽にも長野に行くことを伝えた。
 私も春陽も、おばあちゃんの家には年に二度ほど行っていたから、慣れてはいたけれど。

「ねえ、なっちゃん」
「うん?」

 私のベッドに枕とタオルケットを運び潜り込んできた春陽が、私をぎゅうっと抱きしめる。

「はるちゃん?」
「私、やだよ」

 なっちゃんの言おうとしていることが、なんとなくわかって私もうなずき、お互いを抱きしめあったまま目をつぶる。
 ママのお腹の中できっとこうしていたみたいに。
 布団の中で、じっと身を寄せ合った。