『春陽、私の机の引き出し、三段目開けてみて』
「ここ?」

 最下段の大きな引き出しを開けたら、中にはオヤツがいっぱい詰まっている。
 私の夜中のお供たち。

『好きなの食べていーよ。絶対春陽も気に入るやつばっかだよ? あ、お腹満たすなら、チョコレートバーがいい、ナッツ入ってるし……って、春陽はナッツ駄目だっけ?』
「大丈夫、ナッツはイケる」

 アレルギー多め体質の春陽だからと心配したけど、良かった。
 春陽はチョコレートバーにかじりつくと、ようやく少しだけ笑った。

「おいしい……」
『でしょ、夜中お腹減った時は、いつもこれで満たしてたんだ。カカオ率高めだから集中力も高まるし』
「集中力?」
『あ、うん、定期テストの』

 しらじらしいウソは絶対に春陽に見抜かれている。
 ふうん? と、私の目の奥を食い入るように見つめた春陽は。

「最近の夏月のこと、色々教えて? 聞きたい」
『えー? 聞いてもつまんないよ、きっと』
「つまんなくなんかない。……、ごめんね、夏月」
『なにが?』
「だって、私のせいでしょ? 夏月が長野に来なかったのって」

――夏月はいいよね――
 あの日の春陽の悲しそうな笑顔を思いだしてチクリと胸が痛む。

『なんで春陽のせい? 意味がわかんないだけど』

 なんのことかわからないと笑ってみせたけど、うまくごまかせただろうか。

「ねえ、夏月のこと教えて? この会えなかった一年半近くのこと」

 食い入るような春陽の真剣な瞳に、私はイエスともノーとも答えられず。

『そんなことより、私のスマホを探して』

 全てをはぐらかす究極の依頼を春陽に出した。
 は? と口を開けて放心状態になっている春陽に詰め要る。

『私思うんだよね? こうして死んでも春陽と話せるのって意味があると思うんだよね? 例えば私の未練を春陽が叶えてくれるため、とか』
「待って、まさか夏月の未練って失くしたスマホのこと?」

 それだけの理由? とでも、言いたげに目をまん丸にした春陽に頬を膨らませた。

『ねえ、春陽は自分のスマホを無くしても平気? 中に見られたくないものとか一つも入ってない?』

 うっと言葉を詰まらせた春陽の視線が、無言のまま宙を彷徨っている。
 今だとばかりに、私は畳みこむ。

『私にだって知られたくない秘密がいくつかあるのよ。わかる?』
「ま、まあ……、それは理解する」
『でしょ? だからさ、春陽にもお願いがあるんだけど。キーボードは触ってもいいし、弾いてもいいけど。パソコン触らないで、くれない? 机の引き出しもおやつのとこしか開けないでね。あと、スマホが見つかっても、充電なんかせずに水没させた上、粉々にして捨ててよ! そうでなきゃ、プライバシーの侵害で訴えるからね』

 訴えるって、誰によ? とつっ込まれるかと思ったけど、私より素直で優しい性格の春陽は、ふんと小さく同意するような声を出した。