「夏月……なんで死んだの?」
『階段から、落っこちてっぽい?』

 まあ、警察に聞いた話によるとだけど。

「だから、どうして落ちたのって聞いてるの」
『それって、どうしても話さなきゃいけない?』

 春陽の視線がじいっと私を捉えているけれど、答えは一つだけだから、勿体ぶってみた。

『残念ながら、なーんにも覚えてないの』

 てへ、と小さく舌をだしてみせたら、春陽の怒りに更に火をつけてしまったようだ。

「覚えてないって、おかしいでしょ? 自分のことなのに」
『多分、アレだよね。頭打ったから! それでパカーンって割れた拍子にショックで全部忘れちゃったんじゃないかなー?』

 そんな都合のいい話があるのか、と睨んでくるけど、私だってわかんないんだもの。
 私はなんであの場所にいたのか、どうして階段から落ちたのか。

「じゃあ、スマホは? どこにあるの?」
『さあね』
「はあ?」
『十九時頃にさ、時間確認したの。電池残量がエゲツなくて、後数分で落ちるだろうなって、そこまでは覚えてる。その後、傘買った時にスマホで決済したし』
「どこで確認したの?」
『高校の近くのコンビニ前よ? 私のスマホのGPS状況を辿ればわかるだろうし、そこまでは警察だって調べてるんじゃない? だって不審死って言うんでしょ? 私みたいな、よくわからない死に方したら』

 ケラケラと明るく笑ってみせたら、春陽の目から大粒の涙があふれ出す。

「……そんな自虐めいた言い方しないでよ。悲しくなる」
『泣かないでよ、はるちゃん。私まで悲しくなっちゃうじゃん』
「だって、なっちゃんがバカみたいな冗談言うんだもん」
『バカみたいは余計だよ、本当のことなんだし。私は、死んだの』
「そんなの認めたくない」

 しゃくりあげて泣き始めた春陽の姿がボヤけるのは、私も泣いているからだろう。
 お互いのことを『ちゃん』付けで呼ぶのなんて、何年ぶりだっけ。
 なんだか、小さいころに戻ったようで、はるちゃんなんて懐かしい愛称で呼びかけてしまっていた。
 しばらく泣きじゃくっていたら春陽のお腹からグウと音が聞こえた。
 このシリアスなシーンに不釣り合いの音に、クスクス笑ったら「仕方ないでしょ、誰かさんのせいで食欲わかなかったんだし」と口を尖らせている。