「夏月……?」

 不安げな声で私を呼んでいる春陽と目が合う。
 まさか、もしかして、私の声聞こえちゃった? そんなわけ……。

「うそ、夏月……? なんで……?」

 振り絞るように出した春陽の声は、ガラガラで震えている。
 それから力無くペタリと床に座り込むと、口元を抑えて震えながら確実に私を見あげている。
 見えてる? 私のこと、見えてるんだ。
 驚きが悲鳴にならないように必死に堪えているのだろう。
 春陽は絶対ビビってる、そりゃそうだよね。
 いくら双子ったって、死んだ人間が目の前にいるってことに驚かないわけないだろうし。
 オカルト系が苦手な春陽だもの、腰が抜けちゃったのかもしれない。
 さて、こういう時はどうしたらこの凍り付いた雰囲気を脱出できるだろうか。
 うらめしやー、なんて冗談でもやったら春陽が気絶しちゃいそうだし。
 んんっと一つ咳払いしてから。

『そんな驚かれたら、傷つくんですけどー?』

 震えていた春陽の目が丸くなる。
 極力明るく声をかけたつもり。

『春陽、元気だった?』

 生前となんら変わりない、久々に会った時の私の挨拶。
 すると泣き出しそうに眉間に皺をよせ、下唇を突き出した春陽が私を睨んで。

「元気なわけないじゃん。ねえ、夏月、これって何の冗談?」
『冗談?』
「どっかに隠れてホログラムで写してるとか? ねえ、ちゃんと出てきて? 怖がらせないでよ」
『出るって?』
「だから、本当は死んだなんて嘘なんでしょ? どっかに隠れてるんでしょ?」
『んなわけないじゃん! 春陽だって見たでしょ? 私の実体が燃えちゃったのも! お骨拾ってくれてたじゃん』

 笑わせようと思ったんだけど、春陽は更に怒りだした。

「ふざけないで! 何も面白くなんかないから! 燃えちゃったとか、お骨とか軽く言わないでくれる? ママもパパも、ばあちゃんやじいちゃんだって、夏月が死んでどれだけ悲しいかわかってるの?」

 春陽の泣き顔に、胸が痛んだ。
 わかってる、わかってるよ。
 皆いっぱい泣いてくれてた、私の死を悲しんでたのもずっと見てたもん、でもさ?

『でも仕方なくない? 死んじゃったんでしょ、私』

 私の言葉に頭を抱えた春陽の前に、鏡合わせになるように座り込む。
 春陽は半透明になった私の身体を上から下まで眺めて、ため息をついた。