春陽は自分の部屋側のドアから入り、壁にかかるリモコンで真っ暗な部屋の左半分に明かりを灯した。
 ドアの対面にあるベランダに繋がる窓と、左にあるベッドの上の窓は、レースのカーテンが引かれたまま。
 薄いレースカーテンの向こう側にある暗闇をシャットダウンするように、春陽はすぐに厚手のカーテンを閉じる。
 同様に、対となっている私の部屋の窓にも厚手のカーテンも閉めてから、二つの部屋の真ん中にセットされている大きなエアコンのスイッチを入れた。
 ブオンと無機質な音を立てて、エアコンの送風口が開き、冷たい風が部屋の中に広がっていく。
 八月五日の朝、四つの窓の厚手のカーテンを開けたのは私で、エアコンをオフにしたのも私だった。
 四日間、レースのカーテンのままだったろうこの部屋、厚手のカーテンを引くことになったのも、エアコンをつけることになったのも、春陽だなんて思わなかった。

「なにがあったの? 夏月……」

 春陽の部屋の電気で、薄ぼんやりと照らされた私の部屋に、手がかりを探すように足を踏み入れてくる。
 鏡面するように置かれた机とベッドの配置以外は、私の所有物で溢れており、好きな小説や漫画が、順番もバラバラにカラーボックスに並べられていた。
 四日前、いやそれ以上前かも。
 恥ずかしながら、いつ脱ぎ散らかしたのかわからない服やパジャマがベッドの足元に落ちている。
 ゴミ箱も半分くらいたまっていて、それはお菓子の袋や空のペットボトルだった。
 春陽はそれを眺めて困ったような顔をしている。
 明日、片づけてあげよう、きっとそう思ってるだろう。
 双子だというのに、私はいつも大雑把な性格をしていて、春陽は几帳面だから来る度部屋を片付けてくれていた。
 部屋中を見わたしていた春陽が、小さく「あっ」と呟いた視線の先。
 ……、気づいちゃった?
 そこには隣同士並べて置かれた机。
 私の机の上にはカメラと大きなデスクトップパソコンと小さなノートパソコンと両端にはスピーカー。
 更に春陽の机の上には、電子ピアノを置いていた。
 春陽と会っていない間に始めた私の趣味、見たことのない機材に驚いているみたい。
 春陽はピアノのキーボードにそっと触れて首を傾げてる。
 音がしないことに不思議に思ってるんだろうけど、そりゃそうだ、電源が入ってないんだもの。
 その内春陽はあちこち触り出す。
 わ、これはダメだ、絶対ダメだって!
 音量ボタンを長押ししてみていたり、そうかと思えば全然関係ないボタンを乱打してる。
 止めて、止めて、だって春陽ってば。

『あんまり勝手に触んないでよ? 春陽は機械音痴なんだし』

 その瞬間、春陽は動きを止めて、まるでカラクリ人形みたいにギギギッと硬い動きで振り返る。