「すまぬな、美緒、朝陽。大変な目に遭わせてしまった」
事件から一週間が経った日曜日。
花祈りの仕事を終えた夜、美緒たちはアマネの屋敷にいた。
帰ろうとしたところにアマネの使者を名乗るのっぺらぼうが現れ、アマネが会いたがっていると伝えられたのだ。
姫子は烏丸の元で戦闘訓練の予定だったが、キャンセルして共に来た。
美緒たちは部屋に満ちる清浄な空気にもだいぶ慣れたが、座布団に正座した母は広間の美しい装飾や庭園、一段高い床に座すアマネ、その斜め下に控える篝などを見て、落ち着かないように指を揉んでいる。
ここに来る前も「私は外で待ってたほうがいいんじゃない? 一緒に行っていいの? アマネ様って神さまなんでしょ? 堅苦しい場って苦手なんだけど」とかなんとか言っていた。
しかし、美緒が一番心配しているのは銀太だ。
おとつい、銀太の身体がふっと透けた。
ほんの数秒、それも一度きりのことだったし、本人は至って元気そうなので大丈夫と思いたいが。
「いいえ。確かに大変でしたが、アマネ様が謝られることではありません」
「そうですよ。アマネ様には深く感謝しています。アマネ様が来てくださらなかったらどうなっていたことか。茨には繰り返しても構わないとは言いましたが、本当はどうしようかと頭を痛めていたんです」
「そうか。そう言ってもらえるとわらわも助かるが……恵海《えみ》」
「えっ。はい」
自分の名前を呼ばれるとは思わなかったのか、動転した母がぴんと背筋を伸ばす。
「お主にも謝らせてほしい。大事な娘を巻き込んですまなかった」
「いえいえ。美緒の言う通りですよ。アマネ様が気にされる必要はありません。悪いのは茨ですから……ところで茨はいまどこにいるんです? 茨がいなくなって当主の座についた百地さんという方は美緒にも良くしてくれたそうですし、きっちり慰謝料も払ってくれて一安心なんですが、元凶の茨がどうしているのかわからなくて不安です」
母の言う通り、現在鬼の一族を率いているのは百地だ。
次期当主を誰にするかで揉めに揉め、殴り合いに発展しそうになった鬼たちが困ってアマネに相談し、アマネが推薦したことでそうなった。
気の弱い百地は大いに慌て、最初こそ自分には無理だと言い張っていたそうだが、周囲の助けもあってなんとか当主としての仕事をこなしているらしい。
百地は香を全て撤去し、紅雪をミタニに植え直したそうだ。
今頃彼女は友達と元気に野山を駆け回っていることだろう。また機会があれば会いに行きたいものだ。
事件から一週間が経った日曜日。
花祈りの仕事を終えた夜、美緒たちはアマネの屋敷にいた。
帰ろうとしたところにアマネの使者を名乗るのっぺらぼうが現れ、アマネが会いたがっていると伝えられたのだ。
姫子は烏丸の元で戦闘訓練の予定だったが、キャンセルして共に来た。
美緒たちは部屋に満ちる清浄な空気にもだいぶ慣れたが、座布団に正座した母は広間の美しい装飾や庭園、一段高い床に座すアマネ、その斜め下に控える篝などを見て、落ち着かないように指を揉んでいる。
ここに来る前も「私は外で待ってたほうがいいんじゃない? 一緒に行っていいの? アマネ様って神さまなんでしょ? 堅苦しい場って苦手なんだけど」とかなんとか言っていた。
しかし、美緒が一番心配しているのは銀太だ。
おとつい、銀太の身体がふっと透けた。
ほんの数秒、それも一度きりのことだったし、本人は至って元気そうなので大丈夫と思いたいが。
「いいえ。確かに大変でしたが、アマネ様が謝られることではありません」
「そうですよ。アマネ様には深く感謝しています。アマネ様が来てくださらなかったらどうなっていたことか。茨には繰り返しても構わないとは言いましたが、本当はどうしようかと頭を痛めていたんです」
「そうか。そう言ってもらえるとわらわも助かるが……恵海《えみ》」
「えっ。はい」
自分の名前を呼ばれるとは思わなかったのか、動転した母がぴんと背筋を伸ばす。
「お主にも謝らせてほしい。大事な娘を巻き込んですまなかった」
「いえいえ。美緒の言う通りですよ。アマネ様が気にされる必要はありません。悪いのは茨ですから……ところで茨はいまどこにいるんです? 茨がいなくなって当主の座についた百地さんという方は美緒にも良くしてくれたそうですし、きっちり慰謝料も払ってくれて一安心なんですが、元凶の茨がどうしているのかわからなくて不安です」
母の言う通り、現在鬼の一族を率いているのは百地だ。
次期当主を誰にするかで揉めに揉め、殴り合いに発展しそうになった鬼たちが困ってアマネに相談し、アマネが推薦したことでそうなった。
気の弱い百地は大いに慌て、最初こそ自分には無理だと言い張っていたそうだが、周囲の助けもあってなんとか当主としての仕事をこなしているらしい。
百地は香を全て撤去し、紅雪をミタニに植え直したそうだ。
今頃彼女は友達と元気に野山を駆け回っていることだろう。また機会があれば会いに行きたいものだ。