「お母さん、わたしのために人魚姫の絵本を作ってくれたけど、結末を変えたでしょう。小学校で友達に正しい物語を教えてもらったとき、物凄くびっくりしたんだから」
「ごめんごめん」
 母は立ち上がり、隣に座って、美緒の頭を撫でた。
 姫子の手だ。でも、動かしているのは母だ。母の意思だ。

「だってハッピーエンドじゃなきゃ嫌だったんだもの。物語の結末は、みんな笑顔でめでたしめでたし、が一番良いでしょう?」

「うん。でも、違うの。言いたいことはそうじゃなくて」
 泣きながら、美緒は幼い頃、雪の舞う空を見上げたことを語った。

 あの雪の日に美緒は人魚姫の正しい結末を知り、友達と人魚姫の話をしたことで、夜に枕元で自作の絵本を広げて読み聞かせてくれた母を思い出した。

 だから、恋しくて。

 もう一度、会いたくて、空を見上げたのだ。

 雪の舞う空を見上げていれば、自分が空高く昇って行けるような気がしたから。
 祖母は母が夜空の星になったと語ったから、そこまで昇っていけたら母に会えると思って。
 あのとき、美緒は母を想って泣いた。

「ずっと、ずっと会いたかったんだよ。お母さんがいなくて寂しかったんだよ」
 涙が後から後から溢れ、頰を濡らす。
「うん、うん。ごめんね」
 母は顔を歪めて美緒を抱きしめた。