「恋って…難しいよねぇ……。」

塾長兼講師の皇 晴紀(すめらぎ はるき)が頬杖をつきながら呟く。

「……え、どうしたんですか。いきなりそんな事言って。」

塾に通っている中学3年生、神木 優菜(かみき ゆうな)が問題集をコピーしながら聞く。

「いやぁ…俺ね、今ちょうど恋愛系の本読んでるんだけど…めっちゃ泣けるのよ。辛いのよ。」

優菜はコピーを続けながらも話を聞く事にした。

「…失恋でもしたんですか?先生がそんな本読むなんて。」
「失恋、てか…別れた。」

驚きを隠せない優菜に怪訝な顔をする晴紀。

「何、俺に彼女でも居ないと思ってた?」

「すみません、居ないと思ってました。」

晴紀は苦笑しながら水を飲む。

「まぁ、話してないし。そりゃそんな驚くよねぇ。」

コピーを終え、席に戻ろうとして優菜は声を掛ける。

「辛い事は、話した方が楽になりますよ。今は私以外誰も居ませんし、休憩がてら聞きますよ、話。」

すると晴紀は空を仰ぎ、目を隠す。

「ごめん…。いやぁ…俺が悪いんだけどね。寂しい想いさせちゃってたみたいでさ。」

優菜はポケットからティッシュを取り、晴紀に差し出す。

「…先生がさっき言っていた事、本当ですね。…恋は、難しい。」

「そーだね……。そういえば…神木さんは、彼氏とか居ないの?…あ、これセクハラになるのかな。」

優菜は笑いながら答える。

「セクハラにはならないと思いますよ?彼氏は居ません。…気になる人なら居ます。」

「マジ?」

「マジです。」

晴紀は暫く考え、聞き直す。

「え、マジ?」

「何度聞くんですか。マジですって。」

「…そっかぁ。頑張ってね、俺応援するわ。」

「ありがとうございます。」

受験が近いから、勉強も頑張らないといけないんだよなと思いつつ、優菜は席へと戻る。