二週間の補習期間、敷島は休まずにやってきた。
 野村も「先生がいいからかなあ」と冗談めかして言う始末だ。
 僕の予想通り、敷島はとても飲み込みがよかった。後半は、ほとんど僕は何もしていない。ただ、彼のつむじを見ていただけだ。あとはなんとなく、くだらない話。
「佐原って誰と仲良いの」
 採点をする僕に敷島が問いかける。
「やっぱ、生徒会とかのやつ?」
 僕は解答のほとんどにマルをつけながら、
「さあ、どうだろうね」答える。「仲が良いの定義によるかな」
「出た、定義」はは、と笑って敷島は少し考え、
「うーん、じゃあ、なんでも話せるやつはいるのかよ」
 そう言った。
 僕は最後の問題にもマルをつけ、答案を敷島に返しながら言う。
「いないよ、そんな人」

 帰り道敷島と話しながら、野村や他の教師のことを考えていた。あいつらはどこまでわかってるんだろう。どこまで企んでこの補習授業を仕組んだんだろう。単純に問題児に優等生をあてがっただけじゃ、もちろんないんだろう。
 教育機関。学校。
 あいつらは今までも何人も何人も生徒を見てきていて、何人も問題児や優等生を見ている。
「ねえ敷島」
「ん?」
「なんで金髪にしてるの。やめた方がいいよ。先生からの印象も良くないし」
 敷島は指先で毛先をつまんで、
「ああ、まあ、そうだな」
 そう答える。
「でもさ、地毛が茶色いから染めろって言われたんだよ。だから染めたの」
 キンキンにな、と敷島は笑う。
「――それって反抗心?」
「まあ、それはあるけどさ。地毛でダメって言われるのが理不尽だと思って。オレだけハゲリスク負わないとなのおかしくね? だからいっそ、もっと毛をいじめてやろうって。んで、ハゲたらソンガイバイショー」
 あっけらかんと笑っている敷島を見て思う。
 僕のしたことは、別にそんなすごいことじゃなかったのかもしれない。よくある思春期のただの暴走。それに過ぎないのかもしれない。
 少なくとも、そう思われているのかも。
 僕はあんな、吐きそうになる覚悟で、心を震わせながらやったのに。
 敷島は、こんなに楽しそうに。