賑やかなテレビの音は途切れない。次から次へと新しい情報が流される。智紀はリモコンをテーブルに置いた。

まだ新しい家だ。だいぶ慣れたけど、リビングやキッチンを汚したら母が激怒するから綺麗に整理しておく。……今掃除してくれてるのは、自分じゃないけど。

「智紀、コップ洗い終わったよ」
「サンキュー!」

台所仕事を引き受けてくれた夕夏に笑って返した。まるで二人暮らしをしているようで嬉しくなる。少し前に風呂を出て、夕食の準備を始めた。いっそデリバリーでも頼もうかと思ったけど、夕夏が「食材使っていいなら何か作るよ」と手を挙げたのだ。
今日はいろんな意味で記念日だ。もう最高。しばらくこんな生活がしたい……。
「パスタがいっぱいある。智紀、スパゲッティは?」
「好き! ミートソースが好きだ……」
元気に返すと、彼は笑って用意を始めた。ひき肉と玉ねぎを炒め、ホールトマトと調味料を加えていく。やっぱり普段から作り慣れてるみたいだ。

「いつもお父さんと弟くんに作ってんだっけ?」
「そう。でも作ったもん何でも食うから、手の込んだもんは絶対作らないよ。マジで男の料理だな」

そう言いながら鍋の水を沸かす。ぱっぱと動く、彼はもう立派な主夫だ。

「母親がさ……俺が中学入ったあと、癌で死んだんだ。病気見つかったのが遅くて、もっと早くに気付いてたら助かったのに……って」

料理を片手間に、夕夏は静かに話し始めた。
「あの頃が一番大変だったよ。俺は親父から先に聞かされてたんだけど、まだ小学生の弟にどう話せばいいのか。親父も悩んでたなぁ。結局病院の廊下で話したんだけど、弟だけじゃなくて親父も一緒に泣いてた」
「……」
隣に並んで、彼に寄り添う。なんて声を掛けてやればいいのか分からなかった。俺は父親も母親も元気だ。なんなら絶好調で今三ツ星ホテルにいる。何故こんなに違う……。

「だから病院が嫌いなんだ。最期は毎日弟を連れて通ってたから……先生も看護師さんも皆良い人達だったけど、それでもやっぱり思い出したくないんだ。消毒液の臭いが鼻について、消えなくて」