「俺は、自分がゲイだって嘘ついてる奴らを潰してるだけだよ。それでも俺のしてることは間違ってる?」
「間違ってる」
むしろ何の自信があって正しいと思い込んでるのか……分からないけど、夕夏の声はだいぶ落ち着いていた。

「お前がやめない限り俺は何度でも言うし、止めるよ。少なくとも、何も問題が起きてないカップルなら暖かく見守ってやろうぜ」

それを聞いた夕夏は、さらに困ったように笑った。これは「OK」ってことか……?
大丈夫かな。このツンデレが口頭の注意のみですんなり言うことを聞くだろうか。
少し意地悪なアイデアが閃いて、口角を上げて呟いた。

「もし、またこの約束を破るようなことがあれば。……その時は俺達もお別れだな」
「はっ!? 何で!」

夕夏は思った以上に大きなリアクションで身を乗り出してきた。意外に効き目があったみたいで良かった。いや、むしろ嬉しい。そして「何で」じゃねえ。

「そりゃあ自分は恋人いるのに他人の仲を引き裂くなんて勝手すぎるだろ。俺達は良くてよそのカップルは駄目なんて、ただの矛盾だからな。まして約束を破るような奴は、俺もずっと一緒にいられる自信ないし」
「わ……わかった、約束するよ。もうしない。だから……」
「だから?」

彼は気まずそうに唱えた後、俯いた。まだ続きがあるみたいだけど、待ってても中々出てこない。
でも何を言いたいかは分かってるんだ。
「ねえ夕夏。俺と別れたくない、って言ってよ」
気が抜けたせいか、さっきから意地悪モードが止まらない。彼の腕を掴んで引き寄せると、噛み締めていた薄桃色の唇から小さな声が聞こえた。

「別れたく……は、ない……っ」
「はは、よしよし! よく言えました」

一気にご機嫌パラメータが最大値に達した。
やっぱり恋人は素直に限る!
そして未だ恥ずかしそうに顔をそむける彼を、強く抱き締めた。
「俺もお前とずっと一緒にいたい。だから約束して。お前が人から怨まれてんのも嫌だもん。何されるか分かんないから心配」
彼の柔らかい髪に手を添える。
ちょっと良い花の香りがして、思わず顔を近付けてしまった。
「何してんの」
「ふえー、良い香りすんなぁって思って」
「お前も変わんねえよ」
え。って思った直後、彼は俺の頬にキスをしてきた。

「うわああぁぁっ!」
「何だよ!?」
「いや、お前からキスしてきたの初めてじゃない!?」

大声で叫ぶと、彼は失敗したと言わんばかりに舌打ちした。