こんな事は逆効果だと分かっている。
恐らく、今の夕夏は時限爆弾のようなものだ。カウントダウンが始まったらもう止めることはできない。あとは爆発するのを待つだけ。
そう分かっていながら、彼を押さえる手を離すことはできなかった。離したら今度こそ、遠いところへ行ってしまう気がする。ただでさえ分からないこと、知らないことがたくさんあるのに、これ以上距離を感じたくなかった。
だからかもしれない。夕夏を押し倒し、強引に唇を塞いでいた。
「ん……っ」
絶対、このタイミングですることじゃない。そう思いながらも、容赦なく彼の唇を貪った。
以前と全く変わらない、柔らかい感触。
爆発するなら、巻き込まれて一緒に死にたい。そう本気で思ってる自分に、心底失望する。
「……やめろって。誰かに見られたらどーすんだ」
本当に触れ合うだけのキスだったから、胸を押されれば簡単に離れてしまった。それが助かったとも言えるし、勿体ないとも言える。どちらにせよ、言葉にすることはできない。さらに困惑させてしまう。
夕夏は起き上がり、静かにため息をついた。
「どけよ。立てないだろ」
「その前に、カップルの邪魔はしないって約束して。おかしいじゃんか……俺達は付き合ってるのに」
「他の奴らは別れさせた方がいい。さっきの奴も、大して好きじゃない後輩に無理やり迫ってたんだ。だから二度とふざけた真似ができないように忠告したんだよ。そしたら逆上してきて、喧嘩になったんだけど」
夕夏は“忠告”と言ってるけど、相手を逆上させるほどだ。多分もっと過激な対応をとったんだと思う。
「本当に同性愛者だとしても、遊びで付き合ってる奴ばっかりだ。何かあったら簡単に掌返して切り捨てるし」
「じゃあ俺のこともそう思ってんのか? この関係に飽きたら、お前のことを切り捨てるって。……本気で、思ってんのかよ」
「違う、……お前のことは信じてるよ」
「じゃあ他の奴も信じろ。お前が心配しなくても、皆それなりに考えてるよ。初めは遊びのつもりでも、段々好き同士になることもある。先のことは本人だって分からないんだから、他人の俺達にはもっと分からない。……口を出すべきじゃないんだよ」
上手く言えないけど、恋愛なんて常に行き先未定の特急列車だ。どこまで進み続けるかは誰にも分からない。
少なくとも、他人が線路に飛び込んで進行を阻むような真似はしちゃいけないと思った。