うぅ……っ。

智紀はしばらくその場で放心していた。

七瀬がムカつく。許されるなら、一発。せめて一発でいいから彼を引っぱたいてみたい。

でもやっぱり暴力は良くないと思うから、何とか自分で自分を宥めた。
大丈夫、心を鎮めよう。俺の心は東京ドーム十個分の広さがある。ちなみに七瀬の心はヒトカラ一室分の広さだと思う。

それはそうと、彼の態度に言葉。よく分からないし普通にムカつくけど、……気になる。
多分、あいつは望んで独りになったわけじゃない。なにかで追い詰められ、今の状況にいる気がする。

本当は今すぐ追いかけて、押し殺してる気持ちを聴いてやりたい。

しかしここまで続けた部活を急に辞めるわけにもいかず、放課後も行くことにした。

「須賀、喉乾かない? 一緒に飲み物買いに行こうよ」

無事に練習が終わると、不田澤が話し掛けてきた。最近はもう毎日、この様に何かしらに誘われている。
智紀は上機嫌な不田澤と自販機がある校舎内まで戻った。道中、彼は淀みなく喋り続けていたけど。

「……それでさ、ふざけてくるからクラスの奴らホントおかしくって」
「へぇ……」

色々話してくれるところ悪いけど、話が頭に入ってこない。
七瀬は今、何しているのか。そればっかりだ。
「須賀、聞いてる?」
「あっ、ごめん! 何だっけ?」
駄目だ。また意識が別の方にいく。申し訳なく手を合わせると、強い力で引っ張られた。
「不田澤……っ?」
突然のことに反応できずにいると、誰も居ない教室に連れ込まれた。壁に押し付けられ、妙な所に彼の手が回っている。
「不田澤。ちょ、やめようぜ。くすぐったいから……っ」
これはもう、イヤな予感しかしない。それでも頑張って笑った。
「須賀はさ、こういうこと興味ないの?」
「ど、どういうこと?」
あくまでしらばっくれてると、とうとう手が脚の間をまさぐってきた。

「そそる身体してるんだよ、須賀って。顔もタイプだし」

気のせいだと言い聞かせていたけど、今度ばかりは笑って流せない。確実に貞操の危機だ。

「ち、ちょっと……俺は無理だって!」

どんどん、手が良くない所に伸びていく。ベルトに手を掛けられた時は一気に鳥肌が立った。
怖い────!
その想いが爆発的に膨らんで、声にならない叫びを上げた。ただ一言、「助けて」と。
その直後に、不田澤の真後ろにあった椅子が勢いよく倒れた。うるさいぐらいの音が教室内に響き渡る。

何が起きたのか分からなかった。