なるべく優しい笑顔で、彼の頭をポンポン叩く。
「カップルがいたら暖かい目で見守ろう。それで、なにか事情がありそうな時だけ話を聞く、ってのはどうかな?」
「却下」
ほんっ……とに頑固だ。石頭なんてもんじゃない。
何でこんなに“カップル”に執着しているのか。それを突き止めないと七瀬のやりたいことが分からないし、話が進まない。
上手い聞き出し方を考える。けど彼は藪から棒に、これまでと全く違う話題を振ってきた。
「そういえば、サッカーやってたらしいな」
「え? うん」
「こっちでやる気ねえの? あるなら部活に連れてってやらない事もないけど」
いちいち恩着せがましい言い方をするのは底知れない事情でもあるのかね、キミ。
「……部活かぁ。でも前も、三年になったらほとんど顔出すの止めようと思ってたからな」
こっちで三年から始めても、本気でやれる自信がないかもしれない。それだと部員にとっても迷惑だ。
けど七瀬は悪びれもせず両肩を上げる仕草をする。
「見学とか、体験入部できるだろ。嫌なら入んなきゃいい。部活に入ってりゃアピールポイントにもなるぜ?」
「内申の為だけに入りたいとは思わねえよ。真面目にやってる奴に悪いから……ちなみにお前は何か部活入ってないの?」
気になって訊くと、七瀬はボソッと答えた。
「ない。一年の時にテニス部に入ってたけど、すぐやめた」
何故か、彼は決して目を合わせようとしなかった。
あんまり訊いちゃいけないことだったか?
そんな空気を肌で感じる。
「もしかしてイジめられてたとか?」
「ふふ。冗談は顔だけにしろよ」
「だよな。お前そんなタマじゃないもんな」
納得したけど、何かすげぇ失礼なことを言われたような。
「で、行くの、行かねえの?」
彼は立ち止まって振り返った。
悩む。確かに見学はしてみたい……。
あと彼の関心を引きたいという、邪な想いも強くて。
「じゃあ……行ってもいいかな?」
「いいに決まってんだろ。でもそうだな……今日は突然だから、明日行くぞ。サッカー部の部長に伝えておく。明日の放課後声かけるから」
ちょっと驚いたけど、七瀬に部活を案内してもらう約束をした。
「今日はもう帰る。それで満足だろ?」
「あ、あぁ。ありがとう。帰ろっか……」
ペースは未だに掴めないけど、今日は彼を連れて学校を出ることに成功した。でもこれ、毎日続けるのは大変だなぁ……。