でも、どうせ怒りのせいで赤くなってるんだろう。七瀬はイラついた顔で舌打ちする。
「お前のせいでいつもの倍は声出さなきゃいけないから疲れるよ。おら、さっさとひとりで帰れ」
「つれないこと言うなよ、一緒に帰ろうぜ。それとも、お前はまだ帰んないの? ……ゲイのカップルを捜すから」
「分かってんじゃん。そうだよ、俺は色ボケ共を始末しに行かなきゃいけないから忙しいんだ」
彼の口の悪さは天下一品だ。これで悪意がないと言われたら仰天してしまうレベル。

智紀は密かに決心した。
やっぱり、人の恋路を邪魔する彼を野放しにはできない。

「お前が帰るなら俺も帰るよ。でもお前が帰らないなら、俺も帰らない。不安だもん」
「何が不安だっつーんだよ、カップルを潰したってアンタには何の関係もないだろ。むしろ良い環境になってくはずだ。気持ち悪い会話が飛び交って、気持ち悪い視線を向けられることがなくなるんだから!」

彼の口調が強まる。やや切羽詰まったような響きだ。……なにか、前例でもあったんだろうか。
「誰かが抑止力にならないと、ここは無法地帯だ。童貞君には想像もつかない真似をする奴らもいる。だからお前は平凡なグループとつるんで卒業まで大人しくしてろ!」
ここまで人を怒らせたことが久しぶりだし、ここまで怒ってる人にどう対応したらいいのか正直分からない。
でも絶対、彼をこのまま帰しちゃいけないと思った。彼を放っておいたら、この怒りを次見つけたカップルにぶつける気がする。

「何か事情があるのは分かった。でも他にいくらでも解決策があるよ。何でも武力行使しないで、平和に解決しようぜ」