夕夏の笑顔を見ると、無条件に顔が熱くなる。自分はもしかしたらこの笑顔を見るためにここへ引っ越してきたのかもしれない。意味不明だけど、本気でそう思えるほど胸が高鳴っていた。

「やっぱり、お前は笑ってんのがいいよ。楽しそうに笑ってるとすげー可愛いし、それに何か……俺も嬉しい」
恋人というより、この感覚は家族に近い。
「またお泊まりデートしよ?」
「あぁ」
夕夏は頬を赤らめながら顔を逸らした。そういえば、この照れたときの反応も見慣れた。今は苦笑して終わりだし……。
でも俺達の場合、それも充分すごいことなんだよな。
「夕夏。これから受験もあるし、会える時間もかなり減ると思う。ちょっとの間寂しい想いさせるかもしれないけど、我慢してくれよ」
「わかってるって。つーか、それは俺の台詞だろ」
「ん? ……わっ!」
持っていたフォークがテーブルに置かれる。
勢いよく立ち上がって、夕夏は俺に抱き着いてきた。
「ちょっと、夕夏?」
体重を全部預けられて、ちょっとだけ苦しくなる。もちろん嬉しいけど、急にどうしたんだろう。
「おーい……?」
「充電してんだよ。お前と会えない時間が増えても平気なように、今のうちに抱いておく」
「ははっ、そりゃ名案! 俺も抱いておこっと」
かなり変な構図だと思ったけど、俺は夕夏と抱き合った(※変なところは触ってない)。
……今日はとうとう彼と繋がることができたけど。やっぱり、それが全てじゃないんだ。指先が触れるだけでも満足する。目が合うだけでドキッとする。今は同じ空間で、同じ空気を吸ってるだけで幸せだった。

「大丈夫だよ。夕夏は変わったから……これからは、誰とでも仲良くなれる」
「……うん」

彼の頭を撫でて、細い肩を抱き締めた。その肩は何故か少し震えていて、思わず距離をとる。彼が今どんな表情でいるのか分からなくて不安になった。
「夕夏、どうした?」
その不安は的中していた。夕夏は眼に涙を溜めて俯いている。

「ごめん。嬉しいだけ……智紀に逢えて本当に良かった。今が楽しくて、幸せ過ぎて辛いんだ」
「お前……」

やっば。

俺と一緒じゃんか。

でも彼は意外と涙腺が弱い。余裕に構えられる分、俺の方が得だ。今後訪れるであろうベッドの中でも何でも、やっぱし俺が上。

「これからもっと幸せにしてやる。だから覚悟しろよ、夕夏」