まあ、そりゃそうなるよなっていう顔をしていた。
バスケットボールを両手に抱えて不機嫌そうに下を向いている阿比留。
そして1つ、予想外のことが起きた。
「いやあ、ごめんごめん足骨折だってよ」
1人離脱。
阿比留は補欠ではなく、最初から最後まで試合に出ないといけなくなってしまった。
2週間後の球技大会、数少ない体育の練習の最中俺たちは頭を抱えた。
俺と小野寺、山下はバスケ部、それから残り2人は帰宅部ではあるものの中学時代にバスケ部という優勝を狙えるメンバーではあったものの、帰宅部の1人がなぜか骨折。帰り道にすっ転んだらしい。
そして万年帰宅部の阿比留がレギュラーに繰り上がってしまった。
よ、予想外だ。補欠だからこそ阿比留に無理をさせない程度で近くにいられると思ったのに。
「まあでもよ」
と、小野寺が骨折したやつを慰めるように肩に手を置いて軽く叩く。そして下を向いている阿比留に視線をうつした。
「阿比留以外は経験者ってことは変わらないわけだし、頑張れば優勝狙えるだろ、阿比留はいらんこと動かなくていいから」
阿比留は無言で小さく頷き、ボールをぎゅっと握る。俺のせいで少し、阿比留は傷ついたかもしれない。
小野寺が言っていることは無駄なことはせずただコートの端でじっとしておけと、そういうことだ。
「待てよ、それは違うだろ」
「須崎、なんだよいきなり」
「たかが球技大会だろ、勝ち負けとかより阿比留も楽しんでやらないと意味がないじゃん」
「いやいや、楽しむも何も阿比留走れないだろうし、怪我でもされたらめんどうだろ」
「そこそこ動けるように練習はできるんじゃね」
「ええ、俺はやだよ阿比留のために練習なんて、阿比留いなかったら勝てるんだから」
小野寺の何気ない言葉は、言わんとしていることは分かった。阿比留との接点なんて1ミリもないやつからしたら阿比留の気持ちなんて確かめず、何を言ってもいいとすら思っている。
ひどい言われようなのに阿比留はうんともすんとも言わなかった。ただ達観してこの場を見つめているだけ。それも少し腹が立った。
「阿比留は、どうしたい」
問いかければ、阿比留がわずかに顔を上げる。
そして小さく口を開いた。
「…足を引っ張らない程度に、頑張るよ」
「つまり練習はするってことでいいな」
そういうと戸惑ったように顔を下に向ける。
「体育の時は俺たちに合わせてもらうけど、その他は須崎とマンツーマンで練習ってことでいいんじゃね?」
よく言った山下。おお、と声を出して俺は手のひらに反対の拳を置く。
「そうしよう、俺がそこそこ使えるように練習付き合ってやるよ、阿比留」
白々しいにも程がある言葉を阿比留に投げかければ髪の毛の隙間から恨めしそうに俺を見た阿比留。うわ、貞子みてえ。
「…分かったよ」
消え入りそうな声で返事をした阿比留。試しにボールを床についてみようとしたが、それはあっけなく地面を転がっていった。