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「ひとまずドリブルできように、だな」
お昼休み、体育館の端を借りて阿比留と2人で練習をすることになった。
阿比留はいまだに不服そうだ。何か言いたいことがあるんだろう。
「なんで…」
「阿比留が学校休んだ日に競技決めだったんだよ、俺が阿比留をバスケに入れた、もっと話したかったから」
「っ」
「ききたいことそれで終わり?じゃあ練習するぞ」
ボールが地面に跳ね返り、手のひらに戻る。音が響いた。
阿比留は何か言いたげに口を開いて、閉じた。
そして唇をきゅっと結ぶ。
「ボール、ついてみて」
「…」
「阿比留」
両手にボールを握ったまま下を向く阿比留。
ため息をついて、一歩近づく。
「不服なのは分かるけどさ、あんな言い方されて悔しいとかそういうのないのかよ」
「別にないよ、小野寺くんの言ってたことはごもっともだったし、何もせず端でじっとしておくべきだよ」
「シュート一本くらい決めようぜ」
「人の話きいてる?」
阿比留の瞳が俺を射抜く。
意外と意固地だな、こいつ。
「それに、俺と話したいとかどういうつもりで言ってるか知らないけど、からかってるだけならそういうのもやめてほしい」
からかってる?そんなわけないのに。
どうやってもこいつからしたら俺はただチャラついているクラスメイトというレッテルが剥がれないのだろう。
「うじうじうぜえな、いいから練習しようぜ、ドリブルついてみろよ、そんで歩いてみろよ、ほら」
自分が持っているボールを一度床に置き、阿比留と数メートル距離をとって両手を広げる。
阿比留は諦めたようにため息をついた。
そして両手に抱えていたボールを片手に持ち替えておぼつかない動きでボールを床につく。
ボールが阿比留の数メートル先に跳ねていき、阿比留が慌ててそれを追いかけた。ふわりと髪の毛が浮く。
「っ」
なんとか手のひらに一度納めたあと、また床についたボールは当然再び阿比留の手に戻ることはなく予想外のところに跳ねた。
俺は、それを自分の片手に受け取ったが、阿比留は慌ててそれを追いかけて、
「阿比留っ」
足を絡ませて阿比留の体が前にいく。
「ご、ごめん」
気づけば、阿比留が自分の胸の中に収まっているという現実。すぐそばできこえた阿比留の気弱な声に我に返った。
自分の体が倒れることはなく、抱き止めるように阿比留の肩に腕がまわった。
「大丈夫か」
阿比留が自分の胸におさまったまま、顔を上げた。
いつもより顕になった顔。そして、瞳。
心臓がはねた。いやいやいや、なんでだよ。おかしいだろ、こんなの。
「大丈夫、ごめん、やっぱ俺こういうの向いてない」
そう言ってと距離をとろうとするが俺はまわした腕に力を込めた。
そして片方に持っていたボールが地面を転がる。
その空いた指先で阿比留の前髪をよけた。
「カラコンしててもやっぱ近くでみると、目、色違うの分かるな」
「なっ…」
「なんか鬱陶しいし、前髪あげたら?」
「嫌だよ、てか手、離せよ」
振り解くように俺の腕をどけて、距離をとった後転がったボールを拾い上げた阿比留。そして再び隠すように軽く乱れた前髪を指先で元に戻した。