ソファに山積みになった洗濯物、ドレッサーに乱雑に置かれた化粧品、床に転がるペットボトル。そんな無秩序(むちつじょ)な部屋の真ん中で、彼女は体を丸め、ノートパソコンと向き合っていた。パソコンの画面から発せられる光だけが、彼女を照らしている。片膝を立てて座り、指の爪を噛みながら、その画面を食い入るように見つめていた。

 画面には、印刷プレビューが表示されている。彼女が作成した、クラス同窓会の案内状だ。
 誤字脱字がないことを確認すると、ガタガタになった爪でタッチパッドに触れた。ノートパソコンの隣に置いてあるプリンターが、息をし始める。
 彼女は画面から目を逸らすと、傍らに伏せていた一枚の写真を手に取った。

 そこには、制服姿の男女八人が写っていた。ブラザーの左胸に紅白のリボン徽章(きしょう)をつけ、手には紺色の卒業証書ホルダーを持っている。笑顔で肩を組み、身を寄せ合っているその姿は、青春そのものだった。
 彼女は、その中に自分の姿を見つけると、嘲笑(ちょうしょう)した。
 涙を堪えながら、こちらに笑顔を向けようとしている姿が、あまりにも滑稽(こっけい)だったからだ。まだ、彼らのことを親友だと信じてやまない、無垢な人間だったころ。隣にいる親友は、自分にすべてを曝け出してくれていると、本気で思っていた。

 ――しかし、それは幻想だったのだ。

 彼女の呼吸は途端に荒くなり、額には汗が滲んでいた。手に持っていた写真は、容赦なく握り潰される。
 震える手でテーブル上のPTPシートから錠剤を何錠か取り出し、口の中へ放り込むとそのまま飲み込んだ。すると、次第に呼吸は正常に戻ってゆく。

 写真は、手の中でぐしゃぐしゃになっている。

 折れている箇所は、まるで彼らの亀裂を表しているようで、笑顔を浮かべていた彼らの顔は、大きく歪んでいた。