「う~ん」
 目を瞑って一人の世界に入った。
 その瞬間、一刻者を飲んだ時の父の顔が浮かんできた。
 すると同じことをしてしまった自分が嫌になった。
 父のようにはなりたくないと思っているのに血が邪魔をしているようだ。
 無意識の動作はコントロールできないからどうしようもないが、せっかくの蒲鉾の味が半減した。
「遠慮せずにどんどん食べて」
 心の内を知らない母が3つの皿をわたしの方に動かしたのでホタルイカの冲漬けとニシンの酢漬けを取り皿に取ると、「ところで、どうしたんだ急に」と焼酎のお代わりを作りながら父がぼそぼそっと声を出した。
「う~ん、たまにはご尊顔を拝見しようと思って」
「嘘つけ」
 間髪容れず一刀両断の声が返ってきた。
 横で母が笑っていた。
「何か用事があるんでしょ」
 わたしは素直に頷いた。
 そして、先見さんとのことや牟礼内教授とのことをかいつまんで話し、書店で買った本のことも伝えた。