「新人作家にもメリットがあります。彼らは当然のことながら知名度がありませんから、デビュー作が売れないと次のオファーが来ません。だから一作だけで終わってしまう人も少なくないのです。しかし、デビュー作が売れる確率が高まれば、才能があるにもかかわらず引退を余儀なくされていた人たちを救うことができます。作家と出版社にとってもWIN-WINなのです」
 わたしは感心して声を出すことができなかった。
 しかし、それにしてもユニークな募集要項に加えて電子書籍によるテストマーケティングは画期的だ。
 これは凄いことが起こるかもしれないと思うと、居ても立ってもいられなくなった。
「わたしの研究テーマにさせていただいてもよろしいでしょうか?」
 すると彼は、えっ、というような表情になったが、それに構わず畳みかけた。
「変人・奇人作家の発掘というのは、わたしの専門である異質学にとってもとても興味のあるテーマです。それも長期低落する出版業界を反転させるインパクトのある試みとなれば尚更です。更に、尊敬する先見さんの挑戦となればただ指をくわえて見ているなんてできません。新たな挑戦を間近でフォローさせていただきたいのです」
 すると、「嬉しいですね。そんなふうに言っていただけると感無量というかなんというか」と頬を緩めたあと、ねっ、というように奥さんに視線を向けた。
 頷いた奥さんはわたしの方を向いて、「夫の人生の集大成となる挑戦だと思っています。是非ともお力添えをお願いします」と頭を下げた。
 それを見て先見さんも「駿河台さんが論文にしてくださるならこれ以上の喜びはありません。こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げたので、わたしは慌てて2人以上に深く頭を下げた。 
 顔を上げると、「もう一つお知らせしたいことがあります」と言って、先見さんが立ち上がり、部屋を出ていった。