一気に捲し立てた彼の瞳がキラキラと輝いているように見えたので、「今までとまったく違うタイプの小説が殺到しそうですね」とエールを送ると、「そうなることを願っています。長期低落傾向が続く出版業界が反転するようなインパクトを与えられればと思っています」と嬉しそうに笑ったが、すぐに顔を引き締めた。
「但し、いきなり書店で販売することはしません。リスクが大きいからです」
「と言いますと」
「先ず電子書籍として発売します。それはテストマーケティングという位置付けなのですが、その中で反応の良いものだけを書店流通に乗せるのです」
 それは、コストと返品の両面に対応するためなのだという。
「電子書籍の制作コストは紙の本の四分の一くらいで済むんですよ。だから2,000部も販売できればペイできます。それに電子書籍には返品という概念はありませんから、売れ残って大量に返ってくることもありません」
 そのこともあって、アメリカの独立系出版社では電子書籍の出版点数がうなぎ上りなのだという。
「しかし、日本ではまだまだなんです。電子出版自体は伸びているんですけど、そのほとんどがコミックで、電子書籍は500億円に満たないレベルにとどまっているのが現状なんです」
 デジタル技術によって変革が進む欧米と比べると大きな差が付いている日本の現状を嘆いた。
「でもね、販売や顧客分析が簡単にできますし、ネット上でのクチコミに直結するので、これをやらない手はないんです」
 どこの誰が買ったかわからない書店流通に比べると、お客様の顔がはっきり見えてくるのだという。
「そのデータをしっかり分析した上で、確実に売れると判断したものだけを書店に流すのです」
「でも、書店流通には返品がつきものと言われましたよね。それに制作コストも四倍ということですから、書店流通なんか止めて電子書籍に絞った方がいいのではないですか」
「いえ、そうとも言えないんです。本を、特に小説を買うきっかけとしての書店の役割は大きいんです。タイトルに惹かれて手にした本をパラパラとめくり読むことは大事な接点ですし、帯の文言に惹かれて買う人も多いですからね。それに、当たるか当たらないかわからない小説をイチかバチかで流通させるのではなく、データ分析をしっかりした上で配荷するわけですから、販売予測が大きく外れることもないはずなんです。つまり、返品率をぐっと抑えることができるということになります」
 出版社と書店がWIN-WINになる仕組みだと胸を張った。