「7月の中旬にその人から電話がかかってきましてね。暇だったら遊びに来ないかと誘われたのです。新型コロナウイルスの感染者が3日連続で300人近い状態が続いていたので迷ったのですが、是非会いたいと強く誘われたのに加えて、公共交通機関を使わないでいいように車で迎えに行くとまで言われたのでお邪魔することにしたのです。すると、応接のソファーに座った途端、『うちに来ないか』と直球で誘われました。ジリ貧の小説部門を再建するために力を貸して欲しいと懇願されたのです。私はビジネス書部門の経験しかないからと固辞したのですが、だからいいんだ、と思いもかけない言葉が返ってきました。小説部門のことをよく知っている人には抜本的な改革はできない、この危機的な状況を打破するような思い切ったことはできない、と言うんです。余りにも強く誘われたので気持ちが揺らぎましたが、『私は今の会社で変わり者と言われています。変人扱いされています。そんな人間でもいいんですか?』と釘を刺したら、『だからいいんだよ。変人大歓迎!』と大きな笑い声を返されました。常識人や頭のいい人が通用するのは安定した時代だけで、今のような激動する不安定な時代には変人が必要なんだ、と言うのです。嬉しかったですね。変人大歓迎と言ってくれる経営者に出会ったのは初めてだったので、ちょっと舞い上がってしまいました。それで即答してしまったのです。お世話になりますと」