1年後ーー……。
待てど暮らせど……母親からの連絡はなかった…。
小学校入学式を翌日に控えた夜のことー…。
お風呂から上がると…ばあちゃんに声をかけられた。
母親が家を出たまま帰らず……
1人で寝起きしている2階の部屋で『話があるから……』と、小声で言われ、じいちゃんに『おやすみなさい』の挨拶もせずに上がった。
じいちゃんはニュースを見ながら晩酌をしていた。
部屋に入ると俺は正座をしてばあちゃんと向き合った。
「明日、入学式ね」
「うん」
「おめでとう」
「ありがとう、ばあちゃん」
「それでね、これが……届いたの」
ばあちゃんが両手で大事そうに俺に差し出したのはシンプルな包装紙に水色のリボンが結ばれている、厚みが1センチ位ある正方形の包みだった。
「……?」
俺は不思議そうに包みを見つめた。
「母親……からよ」
「っ!」
驚いた……。
「今日、届いたの。手紙に隆ちゃんに渡してほしい……って、書いてあったよ」
ばあちゃんが優しく微笑む。
「……っ……」
俺は、一瞬……躊躇った…。
微笑みを浮かべたまま……ばあちゃんは『ほらっ…』と、俺に包みを受け取るように促した。
「ーーっ……」
俺は恐る恐る……手をのばした。
何故か、緊張して……ぐっしょりと手汗をかき、指先は小刻みに震えていた……。
「開けてみたら……?」
コクリ……と、小さく頷き、水色のリボンをほどいた。
包装紙を破らないように……細心の注意を払いながら、セロハンテープをゆっくりと剥がしてゆく……。
その間……心臓はバクバクしていて、上手く息が出来ていないような……息苦しさを感じた。
「ーーあっ……」
包装紙を開けた瞬間……微かに鼻先に届いた、懐かしい香水……。
ホッとするような……安心感と哀しくなるような……切なさが胸の中を駆け巡る……。
包みの中には……メッセージカードと1枚のハンカチ。
カードの隅には可愛い車のイラストが描かれていた。
線の細い、柔らかな文体は俺自身が読めるように……全てひらがなで書かれていた。
『にゅうがくおめでとう。
げんきでね。
ままより』
初めて見た、母親の文字。
……こんな文字を書くんだ……。
ハンカチは白い生地で薄桃色の糸で編まれたレースの飾りがつけられていて、その一つの角には赤い糸で大小1つずつ薔薇の刺繍が施されていた。
どう見ても……女性ものだった。
「ばあちゃんの手紙にはね……傍にいられなくてごめんね……って、書いてあったよ。変わりにはならない……けれど……いつも傍にいるから……と、いう思いを込めて、入学祝いにハンカチを贈ることにしたって、ね」
ーー母親……。
気にかけて……いて、くれていた……。
俺が小学生になるから……と、お祝いのプレゼントまで贈ってくれた。
その事実がたまらなく嬉しかった……。
母親が家を出たまま帰らず……一切……何の連絡もなく、家に帰ってこないのは……俺の努力が足りないから……。
まだ、母親の言う『いい子』ではないのだろう……。
頑張り続けても、俺の努力が報われない日々の中……。
もう、いいかな……。
『いい子』でいることを諦めかけていた時に届いた母親からの入学祝い……。
……愛……されてる。
俺は……母親に愛されてるんだ……。
母親が一日でも早く……家に帰ってくるように……頑張ろうっ!
頑張れば、きっと……母親は帰ってくるっ!!
不思議とやる気が出てきて……幼心にそう、強く思ったんだーー……。
待てど暮らせど……母親からの連絡はなかった…。
小学校入学式を翌日に控えた夜のことー…。
お風呂から上がると…ばあちゃんに声をかけられた。
母親が家を出たまま帰らず……
1人で寝起きしている2階の部屋で『話があるから……』と、小声で言われ、じいちゃんに『おやすみなさい』の挨拶もせずに上がった。
じいちゃんはニュースを見ながら晩酌をしていた。
部屋に入ると俺は正座をしてばあちゃんと向き合った。
「明日、入学式ね」
「うん」
「おめでとう」
「ありがとう、ばあちゃん」
「それでね、これが……届いたの」
ばあちゃんが両手で大事そうに俺に差し出したのはシンプルな包装紙に水色のリボンが結ばれている、厚みが1センチ位ある正方形の包みだった。
「……?」
俺は不思議そうに包みを見つめた。
「母親……からよ」
「っ!」
驚いた……。
「今日、届いたの。手紙に隆ちゃんに渡してほしい……って、書いてあったよ」
ばあちゃんが優しく微笑む。
「……っ……」
俺は、一瞬……躊躇った…。
微笑みを浮かべたまま……ばあちゃんは『ほらっ…』と、俺に包みを受け取るように促した。
「ーーっ……」
俺は恐る恐る……手をのばした。
何故か、緊張して……ぐっしょりと手汗をかき、指先は小刻みに震えていた……。
「開けてみたら……?」
コクリ……と、小さく頷き、水色のリボンをほどいた。
包装紙を破らないように……細心の注意を払いながら、セロハンテープをゆっくりと剥がしてゆく……。
その間……心臓はバクバクしていて、上手く息が出来ていないような……息苦しさを感じた。
「ーーあっ……」
包装紙を開けた瞬間……微かに鼻先に届いた、懐かしい香水……。
ホッとするような……安心感と哀しくなるような……切なさが胸の中を駆け巡る……。
包みの中には……メッセージカードと1枚のハンカチ。
カードの隅には可愛い車のイラストが描かれていた。
線の細い、柔らかな文体は俺自身が読めるように……全てひらがなで書かれていた。
『にゅうがくおめでとう。
げんきでね。
ままより』
初めて見た、母親の文字。
……こんな文字を書くんだ……。
ハンカチは白い生地で薄桃色の糸で編まれたレースの飾りがつけられていて、その一つの角には赤い糸で大小1つずつ薔薇の刺繍が施されていた。
どう見ても……女性ものだった。
「ばあちゃんの手紙にはね……傍にいられなくてごめんね……って、書いてあったよ。変わりにはならない……けれど……いつも傍にいるから……と、いう思いを込めて、入学祝いにハンカチを贈ることにしたって、ね」
ーー母親……。
気にかけて……いて、くれていた……。
俺が小学生になるから……と、お祝いのプレゼントまで贈ってくれた。
その事実がたまらなく嬉しかった……。
母親が家を出たまま帰らず……一切……何の連絡もなく、家に帰ってこないのは……俺の努力が足りないから……。
まだ、母親の言う『いい子』ではないのだろう……。
頑張り続けても、俺の努力が報われない日々の中……。
もう、いいかな……。
『いい子』でいることを諦めかけていた時に届いた母親からの入学祝い……。
……愛……されてる。
俺は……母親に愛されてるんだ……。
母親が一日でも早く……家に帰ってくるように……頑張ろうっ!
頑張れば、きっと……母親は帰ってくるっ!!
不思議とやる気が出てきて……幼心にそう、強く思ったんだーー……。