「……じゃーね」

ニコッと、微笑み……部屋を出た。

その微笑みは冷ややかで、瞳はただ……目の前の光景を映しているだけだった……。

パタン……。

背中越しにドアの閉まる音を耳にする。

「……くすっ……」

自然と緩む口許を片手で覆い、マンションの階段を下りてゆく。

エレベーターも設置されているが、今は……他人(ひと)に会いたくない……。

俺だけ(ひとり)
誰にも邪魔されず……この心地よさをじっくりと噛みしめたかった……。

あぁ……。
いいっ……。
最高だっ……。
今回の女性(ターゲット)も……。

階段の途中にある踊り場で足を止め……壁に身を預けた。

「ーーっ……」

先程の光景が頭の中を何度も、何度も……駆け巡る。

あの涙で濡れた絶望しきった瞳……。
すがるように差し出された指先……。
言葉を紡ごうと微かに動く唇……。

ぞくぞくする高揚感……。

たまらない……。

見ていたい……。

ずっと見続けていたい……。

叶うことなら……。

もっと、もっと……壊れろっ……。

そして……。

深く、冷たい……絶望(くらやみ)へと堕ちてゆけ……。

恍惚の表情で階段の天井を見上げ、高揚感の余韻に浸る。

俺ー中浦(なかうら) 隆弥(たかや)は……壊れている(くるっている)……。

そう……。
あの日を、きっかけにーー……。