ふふ、と笑い声を漏らした。何事かと首を傾げると、いや、と前置きをして口を開く。
「俺たち修学旅行中も会うんだなって思ってさ。ここが秘密基地みたいな感じがして、なんか童心に帰れるっていうか」
 ああ。私も目を細めて笑みを浮かべていた。
 私だって同じことを思っていたから。ここでなら、彼は傷付かないで済む。恋をして、苦しむこともない。だからこの場所が好き。
 時が流れるのはあっという間で、彼らが修学旅行に旅立つと二年生の教室はガランとしていた。いつもは笑い声が溢れ、はしゃいでいる望月くんを見かける廊下もしんと静まり返り、寂寥感が漂う。
「あーさき。食堂行かないの?」
 階段の下から紬に呼ばれ、駆け下りて合流する。最後に見た廊下はやっぱり誰もいなかったが、まあでも夜に会えることを思うと、気持ちが軽くなった。
 翌日の朝、私は夢を見ずに目を覚ました。
 目を開けた時、驚いたのは既に朝日が部屋を明るく照らしていたこと。これが夢かと思うほどに信じられない光景に、寝起きの頭が混乱する。
「あれ、なんで……」
 何で、私は起きているのだろう。夢は? 望月くんは? あの場所は?
 なくなった?
 なくならない保証なんか、確かにない。
 心臓がどくりと大きく音を立てる。足がムズムズして、自分のものじゃないみたいに感じられる。地に足をつけていない感覚。