簡単に言ってくれる。私は頭を振った。
「いいよ。クラスに来られても目立つし。望月くん、私の学年でもモテてるんだよ」
「ええ……そうなんだ。まあ有難いけど……」
 浮かない顔で、ため息まで零した。顔のいい人種の悩みではあるだろうが、贅沢な悩みだ。やれやれ、と肩を竦めてみせると、突然思い出したように、星村だって、と続けた。
「前のメンバーに受けてたよ、そういえば」
「前?」
「ほら、海に行ったメンバー。メガネの男がいただろ? あいつが星村のこと可愛いって」
「星村は星村でも、星村蒼菜の方でしょ」
「いやいや、蒼菜ちゃんに連絡先聞いたのも、星村……歩咲の方の連絡先を聞くためだからって。あの時の星村、あいつらに素っ気なかったから、あんまり話しかけらなかったみたいでさ」
 不覚にも、あさき、という響きが気持ちいい。ふうん、と返しながら、そんなこと蒼菜は一言も言ってなかったことを思い出した。
 ただあれ以来、度々望月くんとは進展があったかどうか聞かれるから、蒼菜なりにいらない気を使っているのだろう。
「実際モテてきた?」
 問われて、何度か中学の時に告白してくれた人達の顔を思い浮かべた。
「モテたっていうほどでもないよ。恋とかよく分かんないし」
「じゃあぜんっぜん、本当にしたことないの?」
「ないね」
「まあ恋しなくても、楽しいしな」
 軽やかに言われた言葉に私も同意だった。でも彼は、何度か恋をしているから、どこか説得力に欠ける。そのことは言わないでおこうと口を閉ざした。その度に傷付いてきたのだろうから。