「さっきの押し問答聞いてたけど、寝たいの? どうして? 歩咲、寝起きいいのに」
 言いながら観察する目をずっと続けている。その目のおかげでいくらか冷静さを取り戻した私は、拳を握りしめ、視線を落とした。
「夢を……見なかったの。望月くんに、会わなかった」
「それで?」
「な、なんか、怖くなっちゃって……。あの場所が、なくなったんじゃないかって……なくなったら、私は、どうしたら」
「歩咲」
 言えば言うほど、焦りと恐怖が押し寄せてきて早口になってしまう私を、花乃子が制した。息継ぎも忘れてしまっていたらしく、咳き込んでしまう。そんな私の様子を変わらず見続け、落ち着くと、やっと花乃子は顔をしかめた。
「前に言ったことを覚えてる?」
「へ……?」
「夢の中のことを大事に思わない方がいい、そう言ったはずだよ。何で私がそう言ったのか、考えなかったでしょ」
 彼女は私に近付くと、手を重ねて、真剣な表情を向けてきた。
「あの時はっきり言えばよかった! 取り込まれちゃうからだよ、起きたくない、夢に居続けたい。その想いが強くなると、人間の脳は複雑だからそうなってしまう可能性があるの」
「まさか……。だって、寝たら起きる。これは生き物が当たり前に行う生理現象でしょ」
「でも、世の中には寝続けてしまう病気があるの。起きている時間の方が短いくらい……。その人たちは歩咲のように夢に居続けたい訳じゃないでしょうけど、歩咲は夢で生きたいと思ってしまってる。そうでしょ?」
「そんな、こと……ないよ」
 否定を、力強く出来なかった。花乃子の瞳からも目を逸らしてしまう。