冷や汗が流れてきた。
 なくなった? そんなわけない。
 もう一度布団に潜り込み、目をつぶった。冴え渡った頭はなかなか眠ろうとしない。
「歩咲、起きないか」
 しばらく経つと父が部屋に入ってきた。布団を剥がされ、丸まった身体が露呈する。激しい嫌悪感も、今は苛立ちに変わった。
「やめてよ! 寝るんだからっ」
「何を言ってる? 学校があるだろ、その調子なら体調が悪いわけではなさそうだ」
「うるさい! 布団返せっ」
 大きなため息を吐くと、太い腕に引っ張られ、無理やりベッドから降ろされた。思わずベッドへ手を伸ばすが父の腕力には適わず、部屋から引っ張り出される。
「寝る! 寝るんだ、だって!」
 あの場所が、なくなったなんて信じられない。そんなわけがない。望月くん。望月くん!
 伸ばした手が、掴まれる。柔い女の子の手に、父ではない誰かだと察して顔を上げた。
「花乃子……」
「時間になっても連絡なかったらちょっと見に来た」
 さくっと言うと涼しい顔で父を見上げる。横に立つ蒼菜も心配そうに私を見下ろし、父の袖を引っ張った。
「お父さん、花乃子ちゃんに任せよ」
「だが」
「一日くらいサボったって大丈夫です。私も歩咲も。この状態じゃどちみち行けないでしょうし」
 父の視線が落ちてきて、深いため息が吐かれた。やっと離された手がだらんと下がり、床につくと、今度は花乃子に掴まれていた手の方を引っ張られる。
 二人が階段を降りていった後、私たちは部屋に戻った。けれど気持ちはやはり落ち着かず、ベッドに腰かける。花乃子はカーペットの上に座って、私をじっと見つめてきた。