対峙して浮いている愛琉を睨むような視線を送る。こんな風に怒りを剥き出しにするなど、出会ってから初めてだ。それでも言い逃げは酷過ぎる。峻にだって伝えたくても伝えられなかった想いはあるのだ。
『峻の話って何? 説教とか? 死んでまで怒られたくないな』
茶化して言う愛琉に、冷静に対応した。
「こんな所で話すことでもないから、俺の家に移動しよう。まだ長時間立ってるのもキツいから」
『……そういえば墓だったな』
「茅冬も待ってるし」
『あいつと一緒に来たんだ』
「うん、霊園まで付き添ってもらったんだ」
『ふーん』
納得いかないとでも言いたそうな表情で愛琉が頷いた。
峻は茅冬に“今からそっちに戻る”とメッセージを送り、茅冬からOKのスタンプが届いたのを確認すると来た道を戻った。
「もっとゆっくりしても良かったのに」
茅冬が大きく手を振りながら峻に手招きをする。その様子から、愛琉の姿は見えていないと判断できた。ホッとしつつ、本当に愛琉が幽霊なのだという証明でもある。もうこの世のものではないという現実が突き刺さる。
「やっぱりまだ長時間は立ってられなくて」
「無理すんなよ。いつでも付き添うからな」
さり気なく峻の荷物を持つ茅冬に『あ、こら! それは俺の役目なのに。茅冬テメェ』なんて叫んでる。その声が届くはずもなく、茅冬から鞄を奪おうと振り回す手は体をスッスッと通り抜ける。大袈裟なリアクションが取れないが、本当に峻にしか触れられないことに瞠目としてしまった。峻の目にはくっきりと愛琉の姿が見えているのに、茅冬には全く見えていないのも奇妙な心地だ。
(確か幽霊が見えるのって、可視光線の範囲がどうのこうのって聞いたことがあるけど、そういう関係なのかな)
茅冬と会話を続けながら、チラリと愛琉を盗み見る。目が合った愛琉はにっこりと笑って峻と茅冬の真ん中を陣取り、ちゃんと自分の足で歩く。足まであるものだから余計に奇妙さが増している。子供の頃からの知識では幽霊に足はない。
(俺から見ると幽霊って感じもしないのに、茅冬からだと完全なる透明人間なんだ。と言うことは、間を取って半透明人間って感じかぁ)
「ふふ……」
一人で考えて一人で可笑しくなる。
「どうかした?」
「ごめん。思い出し笑いしちゃった」
バス停に辿り着いたタイミングで丁度バスが到着し、待たずに乗り込めた。座席に腰を下ろすとため息を零す。立ってるのが辛いのは本当のことだった。舗装された道でも段差や坂道はリハビリとはまた違う。あれもこれも峻にとっては試練のようなものだ。座った途端、どっと疲労が押し寄せた。
「愛琉に挨拶できた?」
茅冬がペットボトルのお茶を手渡しながら訊ねる。自分たちの間に割り込んでいるとは、とてもじゃないが言えない。
「うん。まだ満足には……また話しに来ようかと思ってる」
「きっと愛琉も喜ぶよ。毎日でも来て欲しいんじゃない? 本当に峻にベッタリだったもんな」
「中学の時からの友達だし」
「それにしても仲良いの範囲を超えてるって。実はさ、峻と話したいって女子、何人かいたんだぜ? でも愛琉が牽制するように離れなかったから、そのうち諦めてたけど」
「まじ? 初めて聞いた」
「愛琉は気付いてたと思うよ。余程、峻を取られたくなかったんだろうな」
茅冬がどういう意味で話しているのか、今まではそれほど気にしていなかったが、今は無性に気になる。茅冬は愛琉が恋だの愛だのを含めた想いで峻に接していると知っていたのか。
「それって、どう言う意味で言ってる?」
愛琉はいないことになっている。本人の前でこんな質問も失礼な気もするが、好奇心に勝てなかった。茅冬は特に表情を変えもせず正直に答えてくれた。
「別に。好きなんだなぁって思ってただけ。愛琉が本気で恋愛として峻を好きでもおかしくないとは思ってるよ」
「茅冬は男同士の恋愛に抵抗ないの?」
「別に。本人同士の問題だし。万が一、お前らが付き合ってるってカミングアウトしても驚いたりはしなかったよ。どっちかって言うと『やっぱり?』って感じ?」
「そんなもんなの?」
「そんなもんじゃない?」
(そんなもんなのか)
今まで頑なに隠してきた自分の気持ちを、ここまで隠す必要もなかったのかと思い直した。愛琉から打ち明けてくれたから自分も本音を言わずにはいられないと、売られた喧嘩を買ったみたいな気持ちになっていたが、茅冬のおかげで肩の荷が降りた気がした。
「茅冬って、良い奴だな」
「今頃気付いたわけ? 俺、結構良い奴だろ?」
「うん」
今日、茅冬に会えて良かったと思った。
隣で愛琉は茅冬に文句をタラタラ言っているが、気が抜けて眠ってしまった。
家に帰ったら、投げやりじゃなく自分も好きだと伝えようと心に誓った。
『峻の話って何? 説教とか? 死んでまで怒られたくないな』
茶化して言う愛琉に、冷静に対応した。
「こんな所で話すことでもないから、俺の家に移動しよう。まだ長時間立ってるのもキツいから」
『……そういえば墓だったな』
「茅冬も待ってるし」
『あいつと一緒に来たんだ』
「うん、霊園まで付き添ってもらったんだ」
『ふーん』
納得いかないとでも言いたそうな表情で愛琉が頷いた。
峻は茅冬に“今からそっちに戻る”とメッセージを送り、茅冬からOKのスタンプが届いたのを確認すると来た道を戻った。
「もっとゆっくりしても良かったのに」
茅冬が大きく手を振りながら峻に手招きをする。その様子から、愛琉の姿は見えていないと判断できた。ホッとしつつ、本当に愛琉が幽霊なのだという証明でもある。もうこの世のものではないという現実が突き刺さる。
「やっぱりまだ長時間は立ってられなくて」
「無理すんなよ。いつでも付き添うからな」
さり気なく峻の荷物を持つ茅冬に『あ、こら! それは俺の役目なのに。茅冬テメェ』なんて叫んでる。その声が届くはずもなく、茅冬から鞄を奪おうと振り回す手は体をスッスッと通り抜ける。大袈裟なリアクションが取れないが、本当に峻にしか触れられないことに瞠目としてしまった。峻の目にはくっきりと愛琉の姿が見えているのに、茅冬には全く見えていないのも奇妙な心地だ。
(確か幽霊が見えるのって、可視光線の範囲がどうのこうのって聞いたことがあるけど、そういう関係なのかな)
茅冬と会話を続けながら、チラリと愛琉を盗み見る。目が合った愛琉はにっこりと笑って峻と茅冬の真ん中を陣取り、ちゃんと自分の足で歩く。足まであるものだから余計に奇妙さが増している。子供の頃からの知識では幽霊に足はない。
(俺から見ると幽霊って感じもしないのに、茅冬からだと完全なる透明人間なんだ。と言うことは、間を取って半透明人間って感じかぁ)
「ふふ……」
一人で考えて一人で可笑しくなる。
「どうかした?」
「ごめん。思い出し笑いしちゃった」
バス停に辿り着いたタイミングで丁度バスが到着し、待たずに乗り込めた。座席に腰を下ろすとため息を零す。立ってるのが辛いのは本当のことだった。舗装された道でも段差や坂道はリハビリとはまた違う。あれもこれも峻にとっては試練のようなものだ。座った途端、どっと疲労が押し寄せた。
「愛琉に挨拶できた?」
茅冬がペットボトルのお茶を手渡しながら訊ねる。自分たちの間に割り込んでいるとは、とてもじゃないが言えない。
「うん。まだ満足には……また話しに来ようかと思ってる」
「きっと愛琉も喜ぶよ。毎日でも来て欲しいんじゃない? 本当に峻にベッタリだったもんな」
「中学の時からの友達だし」
「それにしても仲良いの範囲を超えてるって。実はさ、峻と話したいって女子、何人かいたんだぜ? でも愛琉が牽制するように離れなかったから、そのうち諦めてたけど」
「まじ? 初めて聞いた」
「愛琉は気付いてたと思うよ。余程、峻を取られたくなかったんだろうな」
茅冬がどういう意味で話しているのか、今まではそれほど気にしていなかったが、今は無性に気になる。茅冬は愛琉が恋だの愛だのを含めた想いで峻に接していると知っていたのか。
「それって、どう言う意味で言ってる?」
愛琉はいないことになっている。本人の前でこんな質問も失礼な気もするが、好奇心に勝てなかった。茅冬は特に表情を変えもせず正直に答えてくれた。
「別に。好きなんだなぁって思ってただけ。愛琉が本気で恋愛として峻を好きでもおかしくないとは思ってるよ」
「茅冬は男同士の恋愛に抵抗ないの?」
「別に。本人同士の問題だし。万が一、お前らが付き合ってるってカミングアウトしても驚いたりはしなかったよ。どっちかって言うと『やっぱり?』って感じ?」
「そんなもんなの?」
「そんなもんじゃない?」
(そんなもんなのか)
今まで頑なに隠してきた自分の気持ちを、ここまで隠す必要もなかったのかと思い直した。愛琉から打ち明けてくれたから自分も本音を言わずにはいられないと、売られた喧嘩を買ったみたいな気持ちになっていたが、茅冬のおかげで肩の荷が降りた気がした。
「茅冬って、良い奴だな」
「今頃気付いたわけ? 俺、結構良い奴だろ?」
「うん」
今日、茅冬に会えて良かったと思った。
隣で愛琉は茅冬に文句をタラタラ言っているが、気が抜けて眠ってしまった。
家に帰ったら、投げやりじゃなく自分も好きだと伝えようと心に誓った。