突然の愛琉の発言に峻はパニックになった。
「待って、何? 告白って。いきなり何の話?」
『峻は俺のこと親友って思ってたんだろうけど、俺は違う。ごめん、峻のこと違う目で見てた』
「違うって、友達の他に何があるの」
まさか愛琉と両思いだったのではないかという期待が湧き上がる。けれどもそんな上手い話があるものか。峻が愛琉をそういう目で見ていたから、別の捉え方ができないだけだ。手に汗を握り、必死で自分に言い聞かせる。
愛琉の話をこれ以上聞いてはいけない気がして、どうにか誤魔化そうと試みたが、愛琉はそれをさせなかった。ずっと手首を掴まれている状態から逃れられるわけもなく、鼓動の速さに気付かれるのではないかと、焦りは益々加速する。
『峻、逃げないで聞いてくれ』
「愛琉、一旦落ち着いて」
この旅行で峻は愛琉への恋情を完全に捨てようと決めていた。例え愛琉が峻の気持ちを受け入れてくれたとしても、男同士の恋愛に未来はない。女子とも付き合える愛琉がわざわざ茨の道を選ぶ必要などないし、自分と同じ世界に引き込むような真似もしたくない。高校を卒業して大学生になればもっと世界は広がって、そのうち愛琉への想いも若気の至りだったと思える日が来る。
だからそれまでは、親友でいたかった。沢山楽しい思い出を作って、それで……そうすれば……きっと、自分を納得させられる。
なのに今更、諦められないようなことを仄めかして欲しくなかった。心の中に押し込めた欲望の熾火が燃えあがろうとしているのを、必死に抑え込む。
愛琉は逃げようとする峻を抱きしめ、強引に、叫ぶように言い放った。
『峻が好きなんだ!!』
「めぐ……る……? 今、なんて……」
『俺、峻を友達って思ったことない。中学で意識し始めてから、ずっと恋愛の意味で好きだった』
「でも俺たち男同士だよ?」
『そう。男同士なのに惹かれちゃって。何でだろうな、不思議なんだよ。峻って『笑顔に惚れました』って言えるほど笑わなかったし、大人しそうなのにテニスやるんだって感じだったし、一見、人見知りしそうなのに話しかけられると誰とでも話するし、大騒ぎするタイプじゃないのに、馬鹿やってる先輩にさり気なく混ざっててさ。変な奴って興味唆られて、気が付けば峻のこと目で追ってたんだよ』
「俺のこと見過ぎだし。分析されるの恥ずいんだけど」
自分の顔が高揚している。愛琉に抱きしめられていて、バレてないのがせめてもの救いだ。
愛琉は背中に回した手で峻の伸びっぱなしの毛先を弄りながら続ける。
『決定打になったのは、俺が怪我してテニス辞めようか悩んでた時』
「中二の頃だっけ?」
『そう。膝痛めて、リハビリすれば治るって言われてたんだけどさ、直近の大会はどうしても間に合わないって自暴自棄になってた。でも誰にも言えなくて。いつもみたく笑ってる俺に、峻は待ってるって言ったんだ。その時、俺の居場所はそこにあるんだって凄い安心して。辛いリハビリも頑張れた』
「あんなに頑張って三年の大会で良い成績残したのに、高校で辞めちゃうんだもんな」
『だって俺の居場所はテニス部じゃなくて峻のいる所だからさ。部活に未練は微塵もない。でもさ、好きだって伝えられないまま別れるのは後悔しまくりで。だからこうして残れたのかもしれないな』
おどけて言う愛琉の腕は震えていた。幽霊になっても告白は緊張するのかと思うと少し気が抜けた。何より愛琉が自分と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、泣きそうになってしまう。峻からも愛琉の背中に腕を回す。今なら本音を伝えられそうだと思った瞬間、愛琉が体を離した。
『スッキリしたぁ! 何年も我慢してきたのにさ、肝心な時にこれだもん。でももう心残りもない』
「……どう言う意味?」
『俺ね、峻との旅行で告白して、もしも振られたら違う大学行こうって思ってたんだ。旅行は思い出が欲しかったから。俺と峻だけの思い出が。あーぁ、最高の二日になるはずだったのにな。欲張った俺の自業自得ってやつだよな』
「なに……何が言いたいの、愛琉」
『これで心置きなく成仏できるってことだよ。聞いてくれて、ありがとうな』
愛琉の体がふわりと浮いた。
何もかもが唐突過ぎて理解が追いつかない。峻はまだ何一つ愛琉に伝えていない。なのにこんな短時間で離れていくと言うのか。
「待ってよ。愛琉が矢武さん頼ってまでやりたかったのって、これだけ?」
『うん。峻はほら、友達と思ってた奴から好意を持たれてたなんて気持ち悪いだろ』
「勝手すぎるよ。じゃあ俺の気持ちは? せっかく会えたのに、会えて嬉しかったのに。もっと話したいのは俺だけ?」
『でも俺らは触れ合ってないと会話ができない。俺はこれ以上峻にキモい奴だと思われたくない』
峻から手を離そうとした、その腕を咄嗟に掴んだ。
「……まだ、俺の話が終わってない」
「待って、何? 告白って。いきなり何の話?」
『峻は俺のこと親友って思ってたんだろうけど、俺は違う。ごめん、峻のこと違う目で見てた』
「違うって、友達の他に何があるの」
まさか愛琉と両思いだったのではないかという期待が湧き上がる。けれどもそんな上手い話があるものか。峻が愛琉をそういう目で見ていたから、別の捉え方ができないだけだ。手に汗を握り、必死で自分に言い聞かせる。
愛琉の話をこれ以上聞いてはいけない気がして、どうにか誤魔化そうと試みたが、愛琉はそれをさせなかった。ずっと手首を掴まれている状態から逃れられるわけもなく、鼓動の速さに気付かれるのではないかと、焦りは益々加速する。
『峻、逃げないで聞いてくれ』
「愛琉、一旦落ち着いて」
この旅行で峻は愛琉への恋情を完全に捨てようと決めていた。例え愛琉が峻の気持ちを受け入れてくれたとしても、男同士の恋愛に未来はない。女子とも付き合える愛琉がわざわざ茨の道を選ぶ必要などないし、自分と同じ世界に引き込むような真似もしたくない。高校を卒業して大学生になればもっと世界は広がって、そのうち愛琉への想いも若気の至りだったと思える日が来る。
だからそれまでは、親友でいたかった。沢山楽しい思い出を作って、それで……そうすれば……きっと、自分を納得させられる。
なのに今更、諦められないようなことを仄めかして欲しくなかった。心の中に押し込めた欲望の熾火が燃えあがろうとしているのを、必死に抑え込む。
愛琉は逃げようとする峻を抱きしめ、強引に、叫ぶように言い放った。
『峻が好きなんだ!!』
「めぐ……る……? 今、なんて……」
『俺、峻を友達って思ったことない。中学で意識し始めてから、ずっと恋愛の意味で好きだった』
「でも俺たち男同士だよ?」
『そう。男同士なのに惹かれちゃって。何でだろうな、不思議なんだよ。峻って『笑顔に惚れました』って言えるほど笑わなかったし、大人しそうなのにテニスやるんだって感じだったし、一見、人見知りしそうなのに話しかけられると誰とでも話するし、大騒ぎするタイプじゃないのに、馬鹿やってる先輩にさり気なく混ざっててさ。変な奴って興味唆られて、気が付けば峻のこと目で追ってたんだよ』
「俺のこと見過ぎだし。分析されるの恥ずいんだけど」
自分の顔が高揚している。愛琉に抱きしめられていて、バレてないのがせめてもの救いだ。
愛琉は背中に回した手で峻の伸びっぱなしの毛先を弄りながら続ける。
『決定打になったのは、俺が怪我してテニス辞めようか悩んでた時』
「中二の頃だっけ?」
『そう。膝痛めて、リハビリすれば治るって言われてたんだけどさ、直近の大会はどうしても間に合わないって自暴自棄になってた。でも誰にも言えなくて。いつもみたく笑ってる俺に、峻は待ってるって言ったんだ。その時、俺の居場所はそこにあるんだって凄い安心して。辛いリハビリも頑張れた』
「あんなに頑張って三年の大会で良い成績残したのに、高校で辞めちゃうんだもんな」
『だって俺の居場所はテニス部じゃなくて峻のいる所だからさ。部活に未練は微塵もない。でもさ、好きだって伝えられないまま別れるのは後悔しまくりで。だからこうして残れたのかもしれないな』
おどけて言う愛琉の腕は震えていた。幽霊になっても告白は緊張するのかと思うと少し気が抜けた。何より愛琉が自分と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、泣きそうになってしまう。峻からも愛琉の背中に腕を回す。今なら本音を伝えられそうだと思った瞬間、愛琉が体を離した。
『スッキリしたぁ! 何年も我慢してきたのにさ、肝心な時にこれだもん。でももう心残りもない』
「……どう言う意味?」
『俺ね、峻との旅行で告白して、もしも振られたら違う大学行こうって思ってたんだ。旅行は思い出が欲しかったから。俺と峻だけの思い出が。あーぁ、最高の二日になるはずだったのにな。欲張った俺の自業自得ってやつだよな』
「なに……何が言いたいの、愛琉」
『これで心置きなく成仏できるってことだよ。聞いてくれて、ありがとうな』
愛琉の体がふわりと浮いた。
何もかもが唐突過ぎて理解が追いつかない。峻はまだ何一つ愛琉に伝えていない。なのにこんな短時間で離れていくと言うのか。
「待ってよ。愛琉が矢武さん頼ってまでやりたかったのって、これだけ?」
『うん。峻はほら、友達と思ってた奴から好意を持たれてたなんて気持ち悪いだろ』
「勝手すぎるよ。じゃあ俺の気持ちは? せっかく会えたのに、会えて嬉しかったのに。もっと話したいのは俺だけ?」
『でも俺らは触れ合ってないと会話ができない。俺はこれ以上峻にキモい奴だと思われたくない』
峻から手を離そうとした、その腕を咄嗟に掴んだ。
「……まだ、俺の話が終わってない」