『峻と愛琉のラブラブ旅行』が決行されたのは八月、多くの人がお盆休みを終え、仕事に戻った後だった。
混雑を避け平日を狙ったにも関わらず、猛暑にも負けず観光地は人で賑わっていた。
峻と愛琉は予定通り浴衣に着替えると、予約してあったカフェへと向かう。昼時で空腹を感じつつもこの暑さである。
二人して写真映えするかき氷を頼むと猛スピードで平らげた。
「頭いてぇ!! でも美味かった」
「写真撮るの忘れたね。体の熱が一気に引いた」
愛琉はSNSに投稿したかったと、空になった器を見て嘆いた。
「ご飯の写真、撮ればいいじゃん」
峻の提案に早速店員を呼びご飯を注文する。成長期の男子の胃は、かき氷では満たされない。真夏だろうが食欲が減ることはない。
ご当地感のあるメニューはなかったが、ボリューム抜群のご飯に満腹になり店を出た。
「これからどうする、愛琉。ホテルのチェックインまでは時間あるし」
「近くの神社行ってみようぜ。おみくじ引きたい」
スマホのマップで一番近くの神社を探す。名前くらいは知っている有名な神社が出てきてそこに向かうことに決めた。
愛琉は暑いと言いながらも峻に体を寄せる。
肩が触れて歩きにくいはずなのにいつもそうだった。手の甲が触れていることは、峻しか意識していない。決して繋がない手。手が湿っているのは汗か緊張か判断がつかない。時折愛琉の手が動くと、指が過敏にピクリと反応してしまう。
さり気なく指を絡めれば、愛琉はどんなリアクションを見せるだろうか。それとも肌が触れているのが当たり前すぎて気付かないというオチだったりして……。会話を楽しみながらも峻の頭の中では目まぐるしく思考が巡る。
旅行という特別な時間だからこそ、羽目を外してもいいんじゃないかと決意が固まった時だった。
「峻っ!!」
名前を呼ばれると同時に愛琉が峻の手を勢いよく掴み、引っ張った。
ハッと我に返った時に見えたのは、目を見開き、峻の名前を叫びながら背後に視線を向ける愛琉の顔。ほんの一瞬だけ目が合った気がした。愛琉は峻の手を引き自分の方に寄せると、今度は思い切り突き飛ばした。辺りに悲鳴が飛び交い、人々が逃げ惑う。スキール音と、鈍く重い音が響いた。地面に倒れ、僅かに体が跳ねたタイミングで白い物体が峻のサイドからめり込んで引き摺った。焼かれたアスファルトと摩擦で熱いはずが脳が停止しているかのように何も感じなかった。
薄れゆく意識の中で車に轢かれたとは判断できたが、近くに愛琉の気配を感じない。名前を呼びたいが声が出なかった。
真夏の太陽が峻を焼き尽くすように照りつける。
眩しくて目を閉じた。体が重い。早く退いてくれ。愛琉の所に行かなくちゃ……。
峻の意識は、そこで途絶えた。
混雑を避け平日を狙ったにも関わらず、猛暑にも負けず観光地は人で賑わっていた。
峻と愛琉は予定通り浴衣に着替えると、予約してあったカフェへと向かう。昼時で空腹を感じつつもこの暑さである。
二人して写真映えするかき氷を頼むと猛スピードで平らげた。
「頭いてぇ!! でも美味かった」
「写真撮るの忘れたね。体の熱が一気に引いた」
愛琉はSNSに投稿したかったと、空になった器を見て嘆いた。
「ご飯の写真、撮ればいいじゃん」
峻の提案に早速店員を呼びご飯を注文する。成長期の男子の胃は、かき氷では満たされない。真夏だろうが食欲が減ることはない。
ご当地感のあるメニューはなかったが、ボリューム抜群のご飯に満腹になり店を出た。
「これからどうする、愛琉。ホテルのチェックインまでは時間あるし」
「近くの神社行ってみようぜ。おみくじ引きたい」
スマホのマップで一番近くの神社を探す。名前くらいは知っている有名な神社が出てきてそこに向かうことに決めた。
愛琉は暑いと言いながらも峻に体を寄せる。
肩が触れて歩きにくいはずなのにいつもそうだった。手の甲が触れていることは、峻しか意識していない。決して繋がない手。手が湿っているのは汗か緊張か判断がつかない。時折愛琉の手が動くと、指が過敏にピクリと反応してしまう。
さり気なく指を絡めれば、愛琉はどんなリアクションを見せるだろうか。それとも肌が触れているのが当たり前すぎて気付かないというオチだったりして……。会話を楽しみながらも峻の頭の中では目まぐるしく思考が巡る。
旅行という特別な時間だからこそ、羽目を外してもいいんじゃないかと決意が固まった時だった。
「峻っ!!」
名前を呼ばれると同時に愛琉が峻の手を勢いよく掴み、引っ張った。
ハッと我に返った時に見えたのは、目を見開き、峻の名前を叫びながら背後に視線を向ける愛琉の顔。ほんの一瞬だけ目が合った気がした。愛琉は峻の手を引き自分の方に寄せると、今度は思い切り突き飛ばした。辺りに悲鳴が飛び交い、人々が逃げ惑う。スキール音と、鈍く重い音が響いた。地面に倒れ、僅かに体が跳ねたタイミングで白い物体が峻のサイドからめり込んで引き摺った。焼かれたアスファルトと摩擦で熱いはずが脳が停止しているかのように何も感じなかった。
薄れゆく意識の中で車に轢かれたとは判断できたが、近くに愛琉の気配を感じない。名前を呼びたいが声が出なかった。
真夏の太陽が峻を焼き尽くすように照りつける。
眩しくて目を閉じた。体が重い。早く退いてくれ。愛琉の所に行かなくちゃ……。
峻の意識は、そこで途絶えた。