完全に怖がらせてしまった。顔面蒼白になった茅冬は、怖くて逃げ出したいけど体が動かない状態になっている。
「もう、分かったから……」
「信じてくれる?」
茅冬は震えながら頷いた。
「ありがとう。でも愛琉に関しては、むしろ見えた方が怖くなくなるんだけどな」
「いや、いいよ。話してくれて、ありがとう」
ありがとうが本音かどうかは考えないことにした。しかし茅冬から距離を置かれるかもしれないとは思ってしまった。どちらにせよ、喧嘩が長引いて離れたかもしれないが。そのまま突入した週末、茅冬からの連絡は一切なかったので峻は半ば諦めていた。
しかし週末が明けた月曜日。昼休みに茅冬から呼び出され、峻と愛琉は屋上へと向かう。
冬の屋上はダウンジャケットを着ていても凍えるほど寒かった。
愛琉は季節が関係なくなり、夏休みと同じ服装のままなので「嘘でも良いから何か着られないの?」と訊いたことがあるのだが、『幽霊用の服屋さんなんてない』と正論で返された。
茅冬は先にそこで待っていた。誰にも聞かれないよう、配慮してくれたのには感謝する。
「寒いけど、直ぐ終わる話しだから」
「愛琉のこと?」
「っていうか、旅行のこと。行くって言ってただろ?」
「あぁ、うん……。どれだけ反対されようと、愛琉と話し合って決めたことだから」
また引き止められると思って言ったが、そうではなかった。
「俺も行くよ」
「どう言うこと?」
「だから、俺も一緒に行く。勿論向こうでは別行動でいいし、ホテルだって近くで予約する。でも最低限、行き帰りは同行させてくれ」
「茅冬……」
「それにさ、親に何て説得するつもりなの? 一人で行くなんて許してもらえないだろ? 俺が一緒に説得してやるから」
「茅冬は、それでいいの?」
「なんかあった時、峻一人じゃどうしようもないじゃん。愛琉がいるって言っても実質一人なんだよ? 一緒に行くのは俺が安心したいから。二人の邪魔はしないって約束する」
熱の籠った説得を断る理由はなかった。愛琉と視線で確かめ合い、茅冬の親切を受け取る。
茅冬は半泣きになって顔を綻ばせた。
「ありがとう、茅冬。正直、突き放されるって思ってた。気持ち悪がられても仕方ないこと暴露したし。週末、連絡がなかったのは旅行のこと考えてくれてたんだな」
「友達辞めるわけないだろ。そりゃ、びっくりしたよ。いきなり幽霊が見えるなんて言うんだもん。でも峻のリアクションとか話し方とか、本当に愛琉がそこにいるとしか思えないほど自然で、とても演技とは思えなかった。旅行に同行するって言うのは完全に俺の我儘。でも俺も譲れない。峻も愛琉も友達だから」
「茅冬が友達で、本当に良かった」
結局は峻だけが感極まって泣いてしまった。それでも心は満たされて温かい。屋内に戻り、そのまま階段の踊り場で簡単に昼食を済ませると教室へと戻った。
茅冬はその週の内に峻の家に来て親を説得してくれた。最初は渋い顔をしていた両親も、二人の熱意に負けて承諾してくれた。
「但し、受験が終わって卒業式も終わってからね」
「絶対に頑張るよ。愛琉に顔向け出来ないようじゃ、俺も行くの気まずいし」
母に合格すると宣言したも同然だったが、峻とて落ちるつもりで受けるわけではない。
その夜、茅冬は峻の家に泊まった。実質三人で並んで横になるのは初めてだ。
「今も愛琉いるんだよな?」
「いるよ。二十四時間一緒にいる。あ、でも風呂とトイレの時は離れてるよ」
『俺は別に気にしないって言ってるのに』
「俺が気にするんだよ」
最初の夜、峻が風呂に入ると当たり前のように浴室へ来た愛琉に説教したのを思い出す。
「なんか今、愛琉がなんて言ったのか分かった気がする」
峻の反応に、くすくすと笑いながら茅冬が言った。
「茅冬の想像通りだと思うよ。全く、幽霊になっても愛琉は愛琉。拍子抜けするくらいにね。たまに死んでるって忘れる時あるもん」
「幽霊は怖いけど、峻を見てたら愛琉だし平気かな? って気分にはなるかな」
怖くて眠れないかもしれないと怯えていた茅冬だったが、話しているうちに殆ど同時に寝落ちた。
その後は受験に専念する。
入試当日は朝から雪が降っていて、受験開始時間が大幅に遅れた。
偶然にも同じ大学を志望していた茅冬とは合格すればまた一緒に通うことができる。
「学部は違うけど、頑張ろうな」
「お互い笑って春を迎えよう」
直前まで励まし合い、試験に臨む。
そうして卒業式の後には、希望通り合格通知が届いた。
「俺はギリギリだったと思う。自信なかったし」
「受かったから、なんでもいいじゃん。おめでとう!! 峻も俺も!!」
『本当に、お疲れ!! すげー頑張ったんだし、素直に喜べよ』
「そうだね。良かったぁ」
茅冬とファミレスでお祝いをした。愛琉は何も食べられないが、終始楽しそうに座っている。
お互い学生寮にも入ることから、春休み後半は忙しくなりそうだ。
いつまでも冬が燻っていて肌寒い日が続いていたが、ようやく桜の蕾も膨らんで来た頃、峻たちはいよいよリベンジ旅へと出発する。
「もう、分かったから……」
「信じてくれる?」
茅冬は震えながら頷いた。
「ありがとう。でも愛琉に関しては、むしろ見えた方が怖くなくなるんだけどな」
「いや、いいよ。話してくれて、ありがとう」
ありがとうが本音かどうかは考えないことにした。しかし茅冬から距離を置かれるかもしれないとは思ってしまった。どちらにせよ、喧嘩が長引いて離れたかもしれないが。そのまま突入した週末、茅冬からの連絡は一切なかったので峻は半ば諦めていた。
しかし週末が明けた月曜日。昼休みに茅冬から呼び出され、峻と愛琉は屋上へと向かう。
冬の屋上はダウンジャケットを着ていても凍えるほど寒かった。
愛琉は季節が関係なくなり、夏休みと同じ服装のままなので「嘘でも良いから何か着られないの?」と訊いたことがあるのだが、『幽霊用の服屋さんなんてない』と正論で返された。
茅冬は先にそこで待っていた。誰にも聞かれないよう、配慮してくれたのには感謝する。
「寒いけど、直ぐ終わる話しだから」
「愛琉のこと?」
「っていうか、旅行のこと。行くって言ってただろ?」
「あぁ、うん……。どれだけ反対されようと、愛琉と話し合って決めたことだから」
また引き止められると思って言ったが、そうではなかった。
「俺も行くよ」
「どう言うこと?」
「だから、俺も一緒に行く。勿論向こうでは別行動でいいし、ホテルだって近くで予約する。でも最低限、行き帰りは同行させてくれ」
「茅冬……」
「それにさ、親に何て説得するつもりなの? 一人で行くなんて許してもらえないだろ? 俺が一緒に説得してやるから」
「茅冬は、それでいいの?」
「なんかあった時、峻一人じゃどうしようもないじゃん。愛琉がいるって言っても実質一人なんだよ? 一緒に行くのは俺が安心したいから。二人の邪魔はしないって約束する」
熱の籠った説得を断る理由はなかった。愛琉と視線で確かめ合い、茅冬の親切を受け取る。
茅冬は半泣きになって顔を綻ばせた。
「ありがとう、茅冬。正直、突き放されるって思ってた。気持ち悪がられても仕方ないこと暴露したし。週末、連絡がなかったのは旅行のこと考えてくれてたんだな」
「友達辞めるわけないだろ。そりゃ、びっくりしたよ。いきなり幽霊が見えるなんて言うんだもん。でも峻のリアクションとか話し方とか、本当に愛琉がそこにいるとしか思えないほど自然で、とても演技とは思えなかった。旅行に同行するって言うのは完全に俺の我儘。でも俺も譲れない。峻も愛琉も友達だから」
「茅冬が友達で、本当に良かった」
結局は峻だけが感極まって泣いてしまった。それでも心は満たされて温かい。屋内に戻り、そのまま階段の踊り場で簡単に昼食を済ませると教室へと戻った。
茅冬はその週の内に峻の家に来て親を説得してくれた。最初は渋い顔をしていた両親も、二人の熱意に負けて承諾してくれた。
「但し、受験が終わって卒業式も終わってからね」
「絶対に頑張るよ。愛琉に顔向け出来ないようじゃ、俺も行くの気まずいし」
母に合格すると宣言したも同然だったが、峻とて落ちるつもりで受けるわけではない。
その夜、茅冬は峻の家に泊まった。実質三人で並んで横になるのは初めてだ。
「今も愛琉いるんだよな?」
「いるよ。二十四時間一緒にいる。あ、でも風呂とトイレの時は離れてるよ」
『俺は別に気にしないって言ってるのに』
「俺が気にするんだよ」
最初の夜、峻が風呂に入ると当たり前のように浴室へ来た愛琉に説教したのを思い出す。
「なんか今、愛琉がなんて言ったのか分かった気がする」
峻の反応に、くすくすと笑いながら茅冬が言った。
「茅冬の想像通りだと思うよ。全く、幽霊になっても愛琉は愛琉。拍子抜けするくらいにね。たまに死んでるって忘れる時あるもん」
「幽霊は怖いけど、峻を見てたら愛琉だし平気かな? って気分にはなるかな」
怖くて眠れないかもしれないと怯えていた茅冬だったが、話しているうちに殆ど同時に寝落ちた。
その後は受験に専念する。
入試当日は朝から雪が降っていて、受験開始時間が大幅に遅れた。
偶然にも同じ大学を志望していた茅冬とは合格すればまた一緒に通うことができる。
「学部は違うけど、頑張ろうな」
「お互い笑って春を迎えよう」
直前まで励まし合い、試験に臨む。
そうして卒業式の後には、希望通り合格通知が届いた。
「俺はギリギリだったと思う。自信なかったし」
「受かったから、なんでもいいじゃん。おめでとう!! 峻も俺も!!」
『本当に、お疲れ!! すげー頑張ったんだし、素直に喜べよ』
「そうだね。良かったぁ」
茅冬とファミレスでお祝いをした。愛琉は何も食べられないが、終始楽しそうに座っている。
お互い学生寮にも入ることから、春休み後半は忙しくなりそうだ。
いつまでも冬が燻っていて肌寒い日が続いていたが、ようやく桜の蕾も膨らんで来た頃、峻たちはいよいよリベンジ旅へと出発する。