玄関先に立っていた茅冬は、学校での出来事に気まずそうな顔を浮かべていた。
「ごめんね。急に呼び出して」
「俺こそ、ごめん。ちゃんと峻の話も聞かずに一方的過ぎたって反省してる」
「上がって」
壁に寄りかかっていた愛琉も、複雑な表情で茅冬を視線で追う。ここからどう説明するか……全くの無計画だ。
峻とて、霊感がない頃はその存在を完全に信じているわけではなかったし、なんと言われようと目に見えないものは信用できないと考えるのがごく当たり前だと思っている。
しかし峻と愛琉が再び旅行をするにも、反対されたままでは楽しみきれないと思ってしまう。これだけ心配してくれた茅冬だからこそ、二人のことを理解して欲しかった。
ベッドを背凭れにして並んで座ると、峻は間髪入れずに話始める。間をおくと、緊張が増して喋れない気がしたからだ。
「あのさ、俺、どうしても茅冬に言いたいことがあって……いや、本当は隠し通そうと思ってたんだけど、茅冬なら信じてもらえるかもしれないって……思って……」
突然の意味不明の発言に、茅冬は顰めっ面で峻を見た。
暴露するにしても無計画すぎる行動だとは自覚しているが、期間が開くほど言い出し難くなる。言うなら今しかないと自分に言い聞かせた。峻は一回深呼吸をし、チラリと愛琉を確認する。愛琉は「大丈夫」だと言い聞かせるように、ゆっくりと頷いた。
「……どこ見てんの?」
誰のいない宙を向いたまま頷く峻に、不快感を露わにしたのは仕方のないことだ。峻は茅冬に向き直り、単刀直入に暴露した。
「実は、今ここに愛琉がいる」
「突然、何?」
「俺、実は事故をキッカケに幽霊が見えるようになったんだ。病院でも沢山の幽霊に囲まれて過ごした。それで、こっちに帰ってきて愛琉の墓参りに行った時……」
「まさか……」
「そう、愛琉は俺が来るのを待ってくれてて……再会した」
「う……そ……」
茅冬は言葉が出てこない様子ではあるが、真っ向否定はしなかった。それだけでも救われた気がした。
「多分、茅冬は俺があまり落ち込んでないように思ったんじゃないかな。それは、あの墓参りの時から愛琉とずっと一緒にいるからなんだ。今もこの辺にいて。それで俺、見えるだけじゃなくて会話もできるんだ。条件付きだけど」
「既に訳わかんないけど、とりあえず全部聞くよ」
続けてと言って、膝を抱える。峻は一言お礼を言ってから続けた。
「幽霊と言っても愛琉は生きてた時のまんまの姿なんだ。足もあるし、俺の目には透けてもない。そして触れられる。俺は、幽霊に触れている間だけ会話ができる」
「言ってることが突飛し過ぎて、どう反応するのが正解なんだ?」
「でも、ちゃんと聞いてくれるんだね」
「そりゃ峻は冗談とか言わないタイプじゃん。愛琉と違って」
急に茅冬から名前を出されて、愛琉は『は?』と顔を顰めた。
『俺だって真面目にする時と、そうじゃない時の区別くらいしてたよ』
「愛琉、喧嘩売ってどうするの。謝るんでしょ」
『そうだけどさ』
実質、峻だけが話しているようにしか見えない茅冬は、不信感を解いたわけではないようだ。
「峻、説明続けて」
「中断してごめん。それで、今日は俺一人に見えると思うけど、愛琉はずっと一緒にいる」
「ここに、愛琉が……?」
「そう……なんだ」
愛琉が峻の隣に座り直した。正座をして、茅冬に謝りたいから代わりに伝えてとお願いする。
「それで、愛琉が茅冬に言いたいことがあるって」
「俺に? 何?」
身を乗り出して期待の眼差しを峻へ向ける。
『今まで、ぞんざいに接してごめん。別に茅冬が嫌いだったってわけじゃないから』
愛琉の言葉をそのまま伝える。
茅冬は「そんなこと、分かってるよ」と言って、人差し指で頬を搔く。落ち着いているが、しかしどの程度信じてくれているかは測れない。少しずつ興味は示してくれているように感じた。
「幽霊が見えるって、普通に今も見えてるのかよ」
「うん、生きてる人間と混じって普通に存在してる。最初は怖かったし嫌だった。今は慣れたくないけど慣れちゃった」
「例えば、学校にも?」
茅冬はオカルトの類が大嫌いなのだ。学校にいるなんて分かった日には不登校になるかもしれない。
「意外と見かけないよ。そういえば霊園でも静かなくらいいなかったな。心構えしてたんだけど」
墓地なら沢山の霊がいそうなものだ。思い返してみれば、人魂は遠くに見かけたが上級の幽霊は愛琉しかいなかったのを思い出す。
『あぁ、それね』
愛琉が口を挟んだ。
『峻の姿が見えた時にさ、周りの幽霊に頼むから二人きりにしてくれってお願いして、消えてもらってた』
「は? どういう事だよ。愛琉、霊園でも社交性発揮してるの?」
『だって話し相手もいなきゃ暇なんだもん。俺が墓に入った時は結構いっぱいいてさ。幽霊になっても人間性は変わらないから、喧嘩とか勃発するんだ。だから仲裁に入ったりしてるうちに可愛がってもらえるようになった』
得意げに話すのはいいが峻は呆れ返ってしまうが、愛琉はお構いなしに話を続けた。
『峻の話はしてたんだ。相手が男とは言わなかったけど、もしここに好きな子が来てくれた時は告白してから成仏したいって。だからみんな協力してくれたんだよね』
「愛琉……早く言ってよ。今更、恥ずかしんだけど」
『ごめん、俺も今思い出したわ』
ケラケラと笑いながら、茅冬に視線を戻した愛琉はスッと黙り込んで手でごめんと合図を送った。
峻も茅冬を放置して話しこんでしまったと我に返り、茅冬を見ると、必死に口元に微笑を浮かべようと努力していくれていた。しかし、その表情は明らかに強張っている。
「あ……ごめん……」
「ごめんね。急に呼び出して」
「俺こそ、ごめん。ちゃんと峻の話も聞かずに一方的過ぎたって反省してる」
「上がって」
壁に寄りかかっていた愛琉も、複雑な表情で茅冬を視線で追う。ここからどう説明するか……全くの無計画だ。
峻とて、霊感がない頃はその存在を完全に信じているわけではなかったし、なんと言われようと目に見えないものは信用できないと考えるのがごく当たり前だと思っている。
しかし峻と愛琉が再び旅行をするにも、反対されたままでは楽しみきれないと思ってしまう。これだけ心配してくれた茅冬だからこそ、二人のことを理解して欲しかった。
ベッドを背凭れにして並んで座ると、峻は間髪入れずに話始める。間をおくと、緊張が増して喋れない気がしたからだ。
「あのさ、俺、どうしても茅冬に言いたいことがあって……いや、本当は隠し通そうと思ってたんだけど、茅冬なら信じてもらえるかもしれないって……思って……」
突然の意味不明の発言に、茅冬は顰めっ面で峻を見た。
暴露するにしても無計画すぎる行動だとは自覚しているが、期間が開くほど言い出し難くなる。言うなら今しかないと自分に言い聞かせた。峻は一回深呼吸をし、チラリと愛琉を確認する。愛琉は「大丈夫」だと言い聞かせるように、ゆっくりと頷いた。
「……どこ見てんの?」
誰のいない宙を向いたまま頷く峻に、不快感を露わにしたのは仕方のないことだ。峻は茅冬に向き直り、単刀直入に暴露した。
「実は、今ここに愛琉がいる」
「突然、何?」
「俺、実は事故をキッカケに幽霊が見えるようになったんだ。病院でも沢山の幽霊に囲まれて過ごした。それで、こっちに帰ってきて愛琉の墓参りに行った時……」
「まさか……」
「そう、愛琉は俺が来るのを待ってくれてて……再会した」
「う……そ……」
茅冬は言葉が出てこない様子ではあるが、真っ向否定はしなかった。それだけでも救われた気がした。
「多分、茅冬は俺があまり落ち込んでないように思ったんじゃないかな。それは、あの墓参りの時から愛琉とずっと一緒にいるからなんだ。今もこの辺にいて。それで俺、見えるだけじゃなくて会話もできるんだ。条件付きだけど」
「既に訳わかんないけど、とりあえず全部聞くよ」
続けてと言って、膝を抱える。峻は一言お礼を言ってから続けた。
「幽霊と言っても愛琉は生きてた時のまんまの姿なんだ。足もあるし、俺の目には透けてもない。そして触れられる。俺は、幽霊に触れている間だけ会話ができる」
「言ってることが突飛し過ぎて、どう反応するのが正解なんだ?」
「でも、ちゃんと聞いてくれるんだね」
「そりゃ峻は冗談とか言わないタイプじゃん。愛琉と違って」
急に茅冬から名前を出されて、愛琉は『は?』と顔を顰めた。
『俺だって真面目にする時と、そうじゃない時の区別くらいしてたよ』
「愛琉、喧嘩売ってどうするの。謝るんでしょ」
『そうだけどさ』
実質、峻だけが話しているようにしか見えない茅冬は、不信感を解いたわけではないようだ。
「峻、説明続けて」
「中断してごめん。それで、今日は俺一人に見えると思うけど、愛琉はずっと一緒にいる」
「ここに、愛琉が……?」
「そう……なんだ」
愛琉が峻の隣に座り直した。正座をして、茅冬に謝りたいから代わりに伝えてとお願いする。
「それで、愛琉が茅冬に言いたいことがあるって」
「俺に? 何?」
身を乗り出して期待の眼差しを峻へ向ける。
『今まで、ぞんざいに接してごめん。別に茅冬が嫌いだったってわけじゃないから』
愛琉の言葉をそのまま伝える。
茅冬は「そんなこと、分かってるよ」と言って、人差し指で頬を搔く。落ち着いているが、しかしどの程度信じてくれているかは測れない。少しずつ興味は示してくれているように感じた。
「幽霊が見えるって、普通に今も見えてるのかよ」
「うん、生きてる人間と混じって普通に存在してる。最初は怖かったし嫌だった。今は慣れたくないけど慣れちゃった」
「例えば、学校にも?」
茅冬はオカルトの類が大嫌いなのだ。学校にいるなんて分かった日には不登校になるかもしれない。
「意外と見かけないよ。そういえば霊園でも静かなくらいいなかったな。心構えしてたんだけど」
墓地なら沢山の霊がいそうなものだ。思い返してみれば、人魂は遠くに見かけたが上級の幽霊は愛琉しかいなかったのを思い出す。
『あぁ、それね』
愛琉が口を挟んだ。
『峻の姿が見えた時にさ、周りの幽霊に頼むから二人きりにしてくれってお願いして、消えてもらってた』
「は? どういう事だよ。愛琉、霊園でも社交性発揮してるの?」
『だって話し相手もいなきゃ暇なんだもん。俺が墓に入った時は結構いっぱいいてさ。幽霊になっても人間性は変わらないから、喧嘩とか勃発するんだ。だから仲裁に入ったりしてるうちに可愛がってもらえるようになった』
得意げに話すのはいいが峻は呆れ返ってしまうが、愛琉はお構いなしに話を続けた。
『峻の話はしてたんだ。相手が男とは言わなかったけど、もしここに好きな子が来てくれた時は告白してから成仏したいって。だからみんな協力してくれたんだよね』
「愛琉……早く言ってよ。今更、恥ずかしんだけど」
『ごめん、俺も今思い出したわ』
ケラケラと笑いながら、茅冬に視線を戻した愛琉はスッと黙り込んで手でごめんと合図を送った。
峻も茅冬を放置して話しこんでしまったと我に返り、茅冬を見ると、必死に口元に微笑を浮かべようと努力していくれていた。しかし、その表情は明らかに強張っている。
「あ……ごめん……」