「茅冬? なんで……」
「峻はさ、自分が辛い経験してきたんだろ? なのにまた行く必要ある? 愛琉だってもうあの場所にはいないだろ」
「そうなんだけどさ。悲しい思い出だけの場所にしたくないんだよ。だからリベンジ的な? 愛琉と作るはずだった思い出に浸る旅……とも言うかな」
重い空気にならないよう、軽い感じで言ったのは間違いだった。茅冬は目を真っ赤にし、顔を左右に振る。
「まさか一人で行こうとしてる? ダメだ。絶対に、ダメ」
「どうしたんだよ。急に」
「峻はさ、愛琉が死んだのになんでそんな風にいられるんだ? 一番仲良かったじゃん。なのに吹っ切れたみたいに平然といられるの、おかしいよ。友達がいなくなったんだぞ?」
「……っ!」
何か言い訳をしたかったが、咄嗟に言葉は出てこない。茅冬は峻の呼びかけを遮るように言い放った。
「愛琉が死んじゃって、もしも今度は峻まで死んだら? 俺、これ以上友達がいなくなるの耐えられない。事故は起こらないなんて保証ないだろ? もしもまた何かに巻き込まれたとして、峻が生きて帰って来られる保証もないだろ? なのに簡単に行くなんて言うなよ」
茅冬の言葉に、峻も愛琉も黙り込んでしまった。当人たちはしっかりと話し合えたから多少はスッキリとしている。しかし茅冬や、他の生徒までそうではないのだと反省した。
「茅冬、ごめん。軽率に決めたわけじゃないんだ。俺なりに考えて、どうしても行かなきゃいけないって答えに辿り着いた。まだ親にも言ってないから確定してるわけでもない。でも俺は絶対に行く。行きたいんだ」
茅冬はそれ以上は何も言わなかった。と言うより、泣くのを我慢して言葉が出なかったと言うのが正しい。
クラスのムードメーカーである茅冬のこんな顔を初めて見た。きっと事故のニュースを知った時はもっと泣いてくれたのだろう。これ以上泣かせてはいけなかった。
一時間目が終わる頃には無理矢理気持ちを切り替えた茅冬は、いつも通り接してくれたが、峻はそれが辛かった。茅冬には世話になりっぱなしだと言うのに、自分は心配させてばかりだ。
家に帰り、ベッドに倒れ込む。頭の中で茅冬の泣き顔が焼き付いて離れなかった。それは愛琉も同じだったようで、珍しく愛琉は仰向けに寝転んだまま思いに耽ていた。
「愛琉?」
『なに?』
「俺たち、間違ってるのかな」
『間違ってないと、思いたい……けど……』
愛琉は喉をクッと鳴らした。泣いているのかと思ったが、そうではなかったようだ。それでも思い詰めているのには変わりない。
『俺、茅冬に酷いことばっか言ってたのに。あいつは俺のことも友達って思ってくれてたんだな』
「それね。だって冗談だって捉えてたし」
『冗談でもさ。峻を独り占めしたくて、周りに牽制張ってばかりだったのにさ』
「でも茅冬は愛琉のことも俺のことも、ちゃんと大事にしれくれたよな」
『申し訳ないことしちゃったな』
以前、峻が矢武に対して言ったのと同じように、いや、それ以上に愛琉は思い詰めていた。
「茅冬にだけ、話さない? 本当のことを」
『は? 俺が幽霊になって峻の家に居座ってますって?』
愛琉は峻の発想が突飛だと否めた。どこに幽霊が隣にいますなどと言って、簡単に信じるものか。今度は茅冬を怒らせるどころか、信用問題に発展すると愛琉は言う。
「だからだよ。俺らのこと、信用して欲しいから本当のことを話すんだ。ちゃんと信じてもらえるように話せば、茅冬だって怒ったりしないよ。俺、茅冬を説得してでもあの地に戻らないといけないと思ってるんだ」
愛琉は根負けしたと言って両手を上げた。
『俺が喋っても茅冬には届かないし、姿も何も見えるようにはならない。それを峻一人で本当になんとかできる?』
「……やってみる」
スマホを取り出すと、直ぐに家に来られないかとメッセージを送る。無視されるかもしれないという思いは杞憂に終わった。茅冬は偶々スマホを持っていたのか直ぐに既読マークが表示された。そして『分かった』と端的に返信が届く。
暴走しているわけでもなく、峻は愛琉とのリベンジ旅を実現させるために可能性を大きくしたいのだ。
自分で言い出したものの、自信と不安は五分五分といったところであるが、やるしかない。峻は目を閉じると茅冬の顔を思い浮かべ、ゆっくり長く息を吐いた。
三十分ほど経ち、家のインターホンが鳴る。
「大丈夫、茅冬なら信じてくれる」
立ち上がり、玄関へと向かった。
「峻はさ、自分が辛い経験してきたんだろ? なのにまた行く必要ある? 愛琉だってもうあの場所にはいないだろ」
「そうなんだけどさ。悲しい思い出だけの場所にしたくないんだよ。だからリベンジ的な? 愛琉と作るはずだった思い出に浸る旅……とも言うかな」
重い空気にならないよう、軽い感じで言ったのは間違いだった。茅冬は目を真っ赤にし、顔を左右に振る。
「まさか一人で行こうとしてる? ダメだ。絶対に、ダメ」
「どうしたんだよ。急に」
「峻はさ、愛琉が死んだのになんでそんな風にいられるんだ? 一番仲良かったじゃん。なのに吹っ切れたみたいに平然といられるの、おかしいよ。友達がいなくなったんだぞ?」
「……っ!」
何か言い訳をしたかったが、咄嗟に言葉は出てこない。茅冬は峻の呼びかけを遮るように言い放った。
「愛琉が死んじゃって、もしも今度は峻まで死んだら? 俺、これ以上友達がいなくなるの耐えられない。事故は起こらないなんて保証ないだろ? もしもまた何かに巻き込まれたとして、峻が生きて帰って来られる保証もないだろ? なのに簡単に行くなんて言うなよ」
茅冬の言葉に、峻も愛琉も黙り込んでしまった。当人たちはしっかりと話し合えたから多少はスッキリとしている。しかし茅冬や、他の生徒までそうではないのだと反省した。
「茅冬、ごめん。軽率に決めたわけじゃないんだ。俺なりに考えて、どうしても行かなきゃいけないって答えに辿り着いた。まだ親にも言ってないから確定してるわけでもない。でも俺は絶対に行く。行きたいんだ」
茅冬はそれ以上は何も言わなかった。と言うより、泣くのを我慢して言葉が出なかったと言うのが正しい。
クラスのムードメーカーである茅冬のこんな顔を初めて見た。きっと事故のニュースを知った時はもっと泣いてくれたのだろう。これ以上泣かせてはいけなかった。
一時間目が終わる頃には無理矢理気持ちを切り替えた茅冬は、いつも通り接してくれたが、峻はそれが辛かった。茅冬には世話になりっぱなしだと言うのに、自分は心配させてばかりだ。
家に帰り、ベッドに倒れ込む。頭の中で茅冬の泣き顔が焼き付いて離れなかった。それは愛琉も同じだったようで、珍しく愛琉は仰向けに寝転んだまま思いに耽ていた。
「愛琉?」
『なに?』
「俺たち、間違ってるのかな」
『間違ってないと、思いたい……けど……』
愛琉は喉をクッと鳴らした。泣いているのかと思ったが、そうではなかったようだ。それでも思い詰めているのには変わりない。
『俺、茅冬に酷いことばっか言ってたのに。あいつは俺のことも友達って思ってくれてたんだな』
「それね。だって冗談だって捉えてたし」
『冗談でもさ。峻を独り占めしたくて、周りに牽制張ってばかりだったのにさ』
「でも茅冬は愛琉のことも俺のことも、ちゃんと大事にしれくれたよな」
『申し訳ないことしちゃったな』
以前、峻が矢武に対して言ったのと同じように、いや、それ以上に愛琉は思い詰めていた。
「茅冬にだけ、話さない? 本当のことを」
『は? 俺が幽霊になって峻の家に居座ってますって?』
愛琉は峻の発想が突飛だと否めた。どこに幽霊が隣にいますなどと言って、簡単に信じるものか。今度は茅冬を怒らせるどころか、信用問題に発展すると愛琉は言う。
「だからだよ。俺らのこと、信用して欲しいから本当のことを話すんだ。ちゃんと信じてもらえるように話せば、茅冬だって怒ったりしないよ。俺、茅冬を説得してでもあの地に戻らないといけないと思ってるんだ」
愛琉は根負けしたと言って両手を上げた。
『俺が喋っても茅冬には届かないし、姿も何も見えるようにはならない。それを峻一人で本当になんとかできる?』
「……やってみる」
スマホを取り出すと、直ぐに家に来られないかとメッセージを送る。無視されるかもしれないという思いは杞憂に終わった。茅冬は偶々スマホを持っていたのか直ぐに既読マークが表示された。そして『分かった』と端的に返信が届く。
暴走しているわけでもなく、峻は愛琉とのリベンジ旅を実現させるために可能性を大きくしたいのだ。
自分で言い出したものの、自信と不安は五分五分といったところであるが、やるしかない。峻は目を閉じると茅冬の顔を思い浮かべ、ゆっくり長く息を吐いた。
三十分ほど経ち、家のインターホンが鳴る。
「大丈夫、茅冬なら信じてくれる」
立ち上がり、玄関へと向かった。