茅冬は峻を家まで送ると、そのまま帰っていった。
「また学校でな」
「うん、今日はありがとう」
『明日からも見張ってるからな』
 聞こえないのを良いことに、愛琉は言いたい放題だ。とは言え生前と変わらない気もするが……。
 自室へ移動すると、急に緊張してきた。茅冬と話してる時にさり気なく言えばよかったと後悔しても遅い。愛琉は峻から何を言われるのか、ワクワクしながら待っている。そう瞳が物語っている。
 本当に峻が同性の恋愛を気持ち悪いと思っているなら、あのまま成仏させるのが自然の流れだ。なのに引き止めるどころか自分も話したいことがあるとまで宣言してしまったのだ。これは峻からも告白するとフラグを立てているようなものだ。
『峻、ここ座れよ』
 先に峻のベッドにふわりと胡座をかいた愛琉が、シーツをポンポンと叩いた。
「俺の部屋じゃん」
『ずっとドアの前で突っ立ってるから』
 愛琉は先に言いたいことを全てぶち撒けたから、表情もすっきりとしている。しかし峻は生涯口には出さない予定の告白を突然強いられたのだ。覚悟を決めたとはいえ、何から話して良いのか戸惑ってしまうのは仕方のない話だ。
 ベッドに並んで腰を下ろし、俯いた。愛琉は少しの間、峻から話し始めるのを待っていたが、肩にそっと手を置き上半身ごと向き合わせた。
『話したくないことは言わないくて良いよ。峻に無理させたくない。俺は自分で言うって決めてたからそうしたけど、峻は違うだろ』
 どうやら峻が口から出まかせで引き留めたと思ったようだ。再会を喜んでくれたのが嬉しかったと続ける。そもそも、墓まで来てくれるとも思っていなかったのだと言った。
「行くに決まってるよ。愛琉に会えるなんて思いもよらなかったけど、でも俺は葬儀にも出られなくて、一言も交わさず離れ離れになっちゃって。愛琉の存在ごと過去のものになってしまったんだって、頭では分かってても認めたくなくて……」
 峻はしゃくり上げながら話し始めた。
 初めての二人の旅行で浮かれていて、周りが見えていなかった。あの時もし愛琉が助けてくれなければ、死んだのは自分だったかもしれない。情けない。愛琉はいつだって峻を第一に考えてくれていた。
『峻……』
 そっと肩を抱き寄せる。峻は愛琉に凭れ、首元に顔を埋めるとようやく素直になれた。
「俺も、愛琉が好きなんだ」
『……本当に? でも峻って……え、いつから?』
「自覚したのは高ニの頃からな。茅冬にカップルみたいって言われて喜んでる自分に気付いて、思い返してみれば中学生の時から愛琉の視線を意識していたような気がする」
『じゃあ先輩とバカやってたのも全部俺に向けてやってたってこと?』
「後から思えば、だよ? でもさ、愛琉をそういう目で見てたって気付いた時、すとんって腑に落ちたんだよね。あぁ、そうだ。俺は愛琉が好きなんだって。だからキッカケとかは分かんない。気付いたら好きになってた」
 峻の言葉に、驚きを隠せない愛琉は墓での峻と同じくらい動揺していた。
『多分、俺がずっと見てたからだよ』
「俺も見てたよ。目が合うなって、よく思ってたから」
『もっと早く峻に伝えてたら、違う未来があったのかな』
 愛琉の肩が震えている。峻を守れて良かった。死んだのが自分で良かった。そう言い聞かせて納得させていたけど、本当は二人で生きられる道もあったのではないか。無駄とは分かっていても、愛琉はそう思わずにはいられなかった。
 運命はあまりにも残酷だった。