学校から歩いて数分。
 カラオケに到着した。
 リーダー的存在の人が店員さんと話している。
 僕はチラリと店内を見回した。
 ドリンクバーやソフトクリーム機みたいなのがたくさんある。
 いろんなものがあって面白いと思うと同時に、もしかして僕カラオケ初体験なのでは?という考えが浮かぶ。
 が、十数年も生きてきてそれはないだろう、と思い直す。

 カラオケの部屋は思いの外広かった。
 大人数なので大きい部屋にしたようだ。
 みんなが各々好きな場所に座る。
 僕はどこに座ればいいかわからず、みんなが席につき終わった頃に空いていた端っこに座った。
 みんが好きな曲を入れていく。
 J-popや洋楽、ネタに走って演歌なんてのもあった。
 君は少し音痴で、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 みんなのグラスから飲み物がなくなった頃。
 「誰かジュースくんできてくれなーい?」
 女子が呼びかけた。
 自分で行ったらいいのにと思いつつ、ここで誰も行かなかったら場の空気が悪くなると思ったので、僕が行くよ、と言ったとき。ほとんど同時に、俺が行ってきてやるよ、と君の声がきこえた。
 「んじゃ、2人で行ってきて〜ついでにみんなの分も〜よろしくね〜」
 有無を言わさず、すぐに決める。困る。
 いこっ、か。ときみが気まずそうに僕に声をかける。
 うん、と僕は言う。

 2人でドリンクバーやソフトクリーム機などがある場所まで歩く。
 スマホが鳴る。ゲームの音だ。
 一気にあたりが真っ暗になった気がした。
 「……………そのゲーム好きなん、?」
 「え、あ、っうん」
 「そっか」
 会話終了。
 もうちょっと話したかったが仕方がない。
 「あのさ」
 またもや話しかけられるとは思っておらず、驚きをそのままあらわにしてしまった。
 「あ、え、っと、なに、?」
 「いや、ずっと一緒にいたのに俺らあんまお互いのこと知らん‥やん?だからこれからはさ、お互いのこともっと知っていかん…?」
 思いがけないチャンスだった。
 仲良くする機会を失ってしまった僕にとって、それはとても喜ばしいことだった。
 「そうだね、あら、改めてよろしくね、」
 「おう」
 少し噛んでしまったけれど、無視されなかったということだけで、僕の心は満たされた。
 「さっきゲームの音なったやん?あのゲーム俺も好きなんよね、フレンドならん?」
 まさかそんな話をしてもらえるとは思っておらず、嬉し涙が出るかと思った。
 今まで誰ともやらず1人でやっていたけれど、やはりチームプレイもしてみたかったのだ。
 「も、もちろんいいよ、フレンドなろう」


 ジュースを人数分注ぎグラスを持つ。
 「なあなあ」
 ニヤニヤした表情で呼びかける君。
 「なに?」
 「俺ら2人の分だけソフトクリーム持ってかん?」
 「いいね、やろ」
 自分でも驚くくらいすぐに言葉が出てきた。

 その後部屋に戻ると、みんなが羨ましいといった顔をした。
 「え〜ソフトクリームとってきたの〜?いいな〜ずるい、私にちょっとちょーだい」
 僕のを食べようとしてきた女子を君が制する。
 「これは俺らのご褒美だから。欲しいなら自分でとってきて」
 喧嘩にならないかドキドキしていたけれど、それは明るい人特有のもののおかげで乗り切った。
 というか、みんなが笑っていた。
 え〜そんな厳しいの珍しいやーん、冗談きつい〜と笑いながら言っていたので、冗談だと思ったのだろう。
 ………冗談きつい〜の意味はよくわからないけれど。