「いやー楽しかったー」
「またみんなで遊びたいね!」
「お前、そんなやつって知らんかったわ!」
 みんな口々に感想を話していた。5月の海だから入ることはしなかったけど、砂で遊んだり、ビーチバレーをしたり、お菓子パーティーをしたりと色々なことをした。私も、千遥以外にもクラスの人とも仲良くなったり、東堂くんとも喋れたので思っていた以上に楽しむことができた。
「じゃあ近くのカラオケで二次会やりまーす! 強制じゃないので用事がある人は帰っても大丈夫でーす!」
 親睦会について進めてくれていた団体の一人が、そう知らせてくれた。
「二次会かぁー。千遥、行く?」
 私は隣にいる千遥に訊いた。正直もう疲れたし、帰ってみたい映画もあるので私は帰らせてもらおうかな、と思っていた。
「えっと……」
 千遥は言葉を濁し、視線を泳がせた。
 どうしたのだろう、と思った。千遥はこういうことは優柔不断な性格は出ずに、即決するタイプなのでもう決めていると思っていたのだ。
「海結はどうするの? 帰る?」
「うん、私はもう帰ろっかなって」
 私が答えると、千遥は自分の指を絡ませ、もじもじしている。
「えっと、その……。千遥、永島くんと一緒に帰りたいなって話してたんだけど……いい?」
 千遥は耳まで真っ赤にしてそう言った。そんな千遥の顔は私が初めて見る顔でもあった。
 もしかして。
「もっちろん! ぜんっぜん大丈夫! 千遥は永島くんと2人で(・・・)帰っといて!」
 2人というところを強調して言うと、千遥は顔を極限まで赤くし、うん、と頷いた。
「その代わり、また今度、たっぷり話聞かせてね!」
 私のその言葉にも、うん、と頷き、
「ありがとう!」
 と言ってずっと前にいる永島くんの方へと走っていった。
「あ! それと!」
 千遥は急に止まったかと思うと、こっちに引き返してきて、口を私の耳に近づけた。
「東堂くんも、二次会いかないんだって。ほら、永島くんと千遥、一緒に帰るから。海結と東堂くん、一人で帰ることになるよ」
 そう言って千遥は永島くんと喋っている東堂くんを指さした。
「じゃあ、頑張ってね!」
 そう言い残すと、今度こそ千遥は永島くんのところへ行った。千遥のさっきの顔の赤さは、私へと移っていた。
 永島くんは、東堂くんと何言か話す仕草をすると、千遥歩き出した。私はそのタイミングを狙って、東堂くんに駆け寄る。
「と、東堂くん!」
 私が呼ぶと、東堂くんは振り返った。
「お、天崎さん」
 そう言ってニコッと笑顔になったのは、素なのだろうか。一回で何人もの女の子の心を奪ってしまいそうなその笑顔は、天然だからこそ怖いものだな、と思った。
「えっと、私と一緒に帰らない……?」
 ここまで言うと、断られないか不安になった。私が勝手に仲良く思っていただけで東堂くんはそう思っていないかも? 私は一緒に帰りたいけど、東堂くんは一人で帰りたいかも? そんなマイナスの感情が胸の中でぐるぐると渦巻いた。しかし、そんな不安の心配は少しも必要なく。
「もちろん、いいよ!」
 雲一つ無い青空、というような笑顔で了承を得た。
「東堂くんは、家どこなの?」
 私はできるだけ長く東堂くんと一緒にいたいので、遠い所が良いな、なんて思いながらきいた。
「えっと、実は……ここから五分くらいで着くんだよね、僕の家」
「えっ……!」
 そういえば、最寄りはこの駅だと言っていた、けど。まだまだ一緒にいたかったから帰ろうと誘ったけど、結局一緒に入れるのは5分だけ。この5分だけでも喜ぶべき……?
 私が沈黙してしまったからか、東堂くんは少し戸惑った様子で首の後ろを掻いた。そして。
「えっと。このまま帰るのもなんだし、ちょっと海見ながら喋っていく?」
 そんな提案をされるとは思っていなく、それでも私はすぐに首を大きく縦にふる。
「うん!」
 私たちは海辺に戻り、木を切ってそのまま置いたというようなベンチに座った。
「海、きれいだね」
 私はどこまでも続く海を眺めてそう言った。
「うちが家の近くにあるって、いいね」
「海の匂いが嫌っていうほどするんだけどね。でも、いいよ、海。なんだか、嫌なこともこの海を見たらどうでも良くなっちゃう」
 東堂くんは遠い目をして話す。
 嫌なこと、か。確かに、こんなきれいな、広い海を見たら嫌なことなどどうでもいいことのように思えてしまうのかもしれない。でも、東堂くんが嫌なことを一人で抱え込んでしまうのは、嫌だな。