8月19日。大学生になってから初めての夏休み。私は久しぶりに実家へ帰り、幼馴染――千遥(ちはる)と地元の夏祭りに来ていた。最寄り駅から2駅のところにある海で3日にかけて行われているお祭りで、屋台はたくさんあり、人も多く、最後には花火まで上がるというまあまあ規模の大きいものだ。私も小さいころから毎年――いや、高3の夏は来ていないか。どうしてかはわからないけど。まぁ、それ以外毎年来ているお祭りだ。
「見て見てー! かき氷も、りんご飴も、フランクフルトもあるよー! あ、ベビーカステラは食べる!」
 本当に大学生かと思うほどにはしゃいでいる千遥。でもそれがまだ子供の延長という感じがして、正直、少し嬉しい。
「わかったからー。順番に回ってこ! あと千遥、少し落ち着いてー」
 先々進んでしまう千遥にそう言うが、聞こえているのかはわからない。人通りが多いところで離れたら後々面倒くさいんだけどなーなんて思っていたら……。
 どんっ!
 肩が人にぶつかってしまった。
「ごっ、ごめんなさい!」
変な不良とかじゃないよね……、と願いつつ、慌てて振り返ると。
「あっ、ごめんなさい」
 相手もそう謝罪して、振り返っていた。私はつい、その人に見入ってしまった。
 染めてはいなさそうな少し茶色がかった髪、その茶色と同じキラキラしている二重の目。消えてしまいそうな透明感のある肌。男性の割に少し細めの、でも良いくらいに筋肉がついている体、私と同年代くらいだけど私より10センチ近く高い身長――。
 初めにそんなことを思うのは、傍からしたら気持ち悪い人かもしれない。でも、初めて会うはずなのに、いつか会ったことのある、懐かしい、そんな感じがした――。
「あ、あの……私たちってどこかで――」
 私が言いかけようとすると。
「おーい! こんなところにいたのか。早くしないと置いてかれるぞ」
「ごめんごめん、先行ってて、気づいたら一人になっちゃってた!」
 相手の連れらしき男の人が呼びかけてきた。その後被るように千遥もやって来た。
「あれ……この人、知り合い?」
 千遥が私に小さく耳打ちする。
「ううん、違う、けど……」
 私はこの感情を何と表したら良いかわからず、声が小さくなっていく。そんな私の様子で、千遥は首を傾げた。すると、ひゅー……ばん! という花火の音が聞こえてきた。
「あ! もうはじまっちゃったよ!」 
 千遥が慌ててそう言った。
「もう行くぞ。早くしねぇと花火が終わる」
「あ、うん。ごめん、ケント」
 私達は今まで合っていた目を逸らし、それぞれの方向へと引っ張られていった。
 その後は、千遥といっしょに花火を見た。私はこの祭りの1週間くらい前から、久しぶりに見る花火を楽しみにしていた。
 しかし私は花火より、さっきの男の人のことが頭から離れず、心臓はとくとくと音を立てていた。