家への道を、聖亜と並んで歩いた。
 こんなふうにふたりで歩くのは、何年ぶりだろう。
 聖亜は「ついてくるな」とか「あっち行け」とか騒いでいたけど、ハルに言われたとおり、僕は聖亜が家に入るまで見届けようと思った。
 空はもう薄暗くなっていた。
 まだ具合が悪そうな聖亜が、時々よろけそうになる。
 それを支えようと手を出すと、「触るな」と怒られた。

「聖亜ってほんと、素直じゃないよね」
「は?」
「ほんとは弱いくせに、すぐ強がるとこ、よくないと思う」
「うるせーんだよ、クソユズ!」

 そんなこと言われても、今日は全然怖くない。
 むしろ、いきがってる小学生みたいで、かわいいとさえ思えてくる。
 僕はもう、本当の聖亜を知っているから。

「聖亜。どうして話してくれなかったんだよ」

 聖亜の隣でぽつりとつぶやく。

「つらいことや苦しいこと、僕に吐き出してくれればよかったのに」

 バスケットゴールがある、あの公園が見えてきた。
 すると聖亜が立ち止まって言った。

「よく言う」
「は?」
「俺のことなんか見捨てて、他のやつらと笑ってたくせに」
「え、なに? なんのこと?」

 意味がわからず呆然とする僕を、聖亜がにらみつける。

「小四のころだよ!」
「小四のころ……」

 僕は記憶を巻き戻す。

「俺の母親が出ていっただろ」
「あ、うん」
「弟と一緒に」

 弟……そういえば聖亜には、弟がいたような気がする。

「ユズはあんま知らねーだろうけどな。俺の弟、ずっと入院してたから」
「あ……」

 思い出した。母さんから聞いたことがある。
 聖亜の弟は重い病気を患っていて、入院生活を送っているって。
 家に帰ってこられるのは一年のうち、ほんのわずかな日数だけで、ほとんど病院で過ごしているって。
 だから僕は聖亜の弟を、よく覚えていないんだ。