「うっ……」

 急に聖亜がえずいて、口元を押さえた。

「うえっ……」
「聖亜!? 大丈夫?」
「うるさい! 見るな! ユズもハルもあっち行け!」

 そう言いながらも、聖亜は苦しそうに体を丸める。
 するとおろおろしている僕を押しのけ、ハルがそっと聖亜の背中をさすった。

「ずっと苦しかったんでしょ?」

 ハルが聖亜の背中をさすりながら、優しく声をかける。

「全部吐き出しちゃいなよ。恥ずかしくないから」
「ぐっ、おえっ……」

 うめきながら嘔吐する聖亜の背中を、ハルがさすり続ける。
 そしてかすれるような小さな声で、「ごめんね、聖亜」とつぶやいた。


 しばらく聖亜は、涙と鼻水を流しながら吐いていた。
 やがて空が赤く染まったころ、僕が買ってきたミネラルウオーターをやっと飲んでくれて、聖亜は落ち着きを取り戻した。
 そばにずっとついていたハルは、僕に向かって言う。

「ユズ、この人のこと、送っていってあげてください」
「……うん」

 僕が手を差し伸べると、聖亜はそれを振り払い、よろけながら立ち上がった。

「ひとりで歩けるわ、ボケ!」
「それだけ文句言えるなら、大丈夫そうだね」

 聖亜がふんっと顔をそむけ、ハルに挨拶もしないで去っていく。

「行ってあげて、ユズ」
「ハル……」
「ボクはひとりで大丈夫です。でもあの人、ほんとはすごく弱いから。だからユズがついててあげてください」

 僕は黙ってうなずいた。
 きっとハルは、いろんなことを思い出したのだろう。
 もしかして聖亜とあの公園で会っていたことも。

「じゃあ、また明日来るから」

 ハルがにっこり笑って、僕に手を振る。
 僕も手を振り返すと、急いで聖亜を追いかけた。