ホームルームが始まる頃には、脳内を支配していた彼の姿もだいぶ薄くなっていた。

今日はどこの水やりをしようかな。きっとどこの担当の美化委員も、水やりをほとんどサボっているだろうし……。

やっぱりいつも通り、全部見て回ろう。なんてことをボーッと考えていると、ふいに担任が語ったセリフが気になって思考をピタッと止めた。


「──それじゃあ最後に。今日は転校生がいるから紹介するぞー」


いつもは担任が語る連絡事項を話半分で聞くクラスメイトたちだけれど、流石に今回の話には興味が湧いたのか一斉にざわめきが広がった。

眠そうにしていた生徒も一瞬で目覚め、前後左右のクラスメイトと話しだす。

僕もびっくりしていたけれど、悲しいことにその興奮を『ねぇ今の聞いた!?』とか言って分かち合える仲のいい生徒が近くにいない。

というわけで、ぽけっと間抜け面で話の続きを待つことしか出来なかった。


「お前ら静かにしろー。転校生が自己紹介出来ないだろー」


相変わらずやる気のなさそうな担任の声を聞き流しながら、ガラッと扉を開けて入ってきた転校生とやらを見つめる。

再びざわっと広がるざわめきと共に、僕はあんぐりと口も目も見開いた。


「初めまして。高嶺志鶴です」