そう言ってすぐ、光の速さでズササーッと立ち去る。

背後から彼が呼び止める声が聞こえたけれど、それも申し訳なく思いながらスルーした。

だってきっと、彼は僕を気遣って、何か無理をするようなことを言うのだろうと察したから。

一度見たら忘れられないような、そんな美形の彼はきっと一年生に違いない。そうじゃなきゃ、ポンコツと言われる僕も流石に彼を知らないはずないし。

だったら、一度ここから去ってしまえばもう滅多に会うことはないはず。

花嫌いな後輩に気を遣わせることがないように、先輩の俺が先手を切ってフォローしなきゃね。そう思いながら、そそくさと三階への階段を駆け下りた。


「いやぁ、それにしても、まさか花嫌いとはなぁ」


自分とは絶対に交わらないような人間が、案外近くにいるものだ。

二年三組の教室に入った僕は、花嫌いの美人な後輩を思い返してため息を吐いた。


「花びら一枚で怖がるくらいだし、相当だよなぁ。大丈夫かなぁ」


きっと彼にとっては、校内の方がむしろ安全だろう。外に出れば、土の上だけじゃなくアスファルトの上でも、花を警戒しなきゃいけないんだから。


「なんか、心配だな……」


学年が違うし、たぶんもう会うことはないだろうけれど。

なんとなく、花を恐れる彼の姿がしばらく頭から離れなかった。