するとふいに、花びら越しに気になる姿が見えて目を丸くした。
彼、どうしたんだろう。なんだかまた怯えているみたいだけれど……。
「あの、大丈夫?なんだかさっきから、とっても具合が悪そうだけれど」
「あぁごめんね、あの、出来ればその花弁をすぐに放ってくれるかな。出来るだけ、すぐに」
笑顔だし、口調も割と穏やかだ。けれどどうしてか、とっても圧を感じる声にも聞こえる。
身体を強張らせた僕は、すぐに摘まんでいた花弁を後ろ手に窓際へ置いた。大好きな花だから、どうしてもぽいっと放ることだけは出来ない。
なんとなく本能で、花弁は彼から遠く離した。それがどうやら正解だったようで、彼は圧を消してほっとしたように息を吐いた。
……この人、もしかして。
「君、もしかして花が嫌いなの?」
って、そんなわけないか。
なんたって花は誰が見ても綺麗なのだから。ここまで完全に花を嫌う人間なんて、早々いるわけ……なんて、ケラケラ笑っていた声はすぐに止まった。
「ッ……!」
気まずそうに笑顔を崩す彼の表情が、鮮明に見えてしまったから。
「え……え、うそ。花が嫌いな人とか、本当にいたんだ。都市伝説じゃないんだ」
あんまり驚いたものだから、思わず呆然とバカなことを呟いてしまった。