もうだめだ。これ以上口を開いても、きっと余計なことしか言えない。
そう察した僕は、素早く立ち上がって花瓶を置き、光の速さでその場を立ち去ろうとした。
けれどその直前、彼の方から「うっ」と呻くような声が聞こえて咄嗟に足を止める。振り返ると、そこにはハンカチで口元を抑える男子生徒の姿があった。
「え、えっ、だだっ、大丈夫!?」
一度は逃げようとした身体を反転し、慌てて駆け寄る。
手を伸ばそうとした瞬間、彼は穏やかな表情を掻き消して鋭い声を上げた。
「っ、触らないで!」
ハッと手を引っ込める。彼の表情があまりに切羽詰まっていたものだから、拒絶された悲しみよりも心配が先に来た。
「ご、ごめん!僕、何かしちゃった?ていうか、具合悪い?大丈夫……!?」
触らないでと言われたから、言われた通り何歩か離れて問いかける。
距離を離して心配する図は、傍から見たらさぞバカっぽいことだろう。けれど仕方が無いのだ。なにせ拒絶されてしまったものだから。
怪しいものじゃありませんよ、の意味も込めて万歳しながら膝をつく。
その体勢のまま何度か体調を尋ねると、やがて彼はハッと眉尻を下げて、申し訳なさそうに呟いた。