「……は?いや、今ウチらが高嶺くんと話してんだけど。見えてないの?」

佐倉(さくら)っていっつも空気読めないよねー。なんか萎えるわー」

「ねっ高嶺くん、私たちとご飯食べよ?男子たちも呼ぶから!」


もじもじとお腹の辺りで組んだ手が震える。無意味に指を動かして恐怖に耐えながら、一度ぐっと唇を引き結んだ。

あぁやっぱり、こんなことするんじゃなかった。だからいつも空気が読めないって怒られるんじゃないか。

泣きそうになりながら、踵を返そうと後退る。その瞬間、目の前からガタッと立ち上がる音が響いた。


「うん。俺、佐倉とご飯食べたい」


ハッと顔を上げる。その先に見えたのは、柔らかく微笑む高嶺くんの姿と、その様子を驚いたように見つめるクラスメイトたちの姿だった。

僕が初めに誘ったっていうのに、どうしてか声を発することも動くことも出来ない。

何か言わなきゃ、早く動かなきゃ。焦っていると、ふいに高嶺くんが歩き出して僕の腕をそっと掴んだ。


「さぁ行こう。早くしないと昼休みが終わっちゃう」


至近距離に優しい笑顔がある。僕の腕を掴む力もとても優しい。

僕はどうしてか涙が溢れそうな瞳をサッと伏せながら、小さく「うん」と呟きながら頷いた。