「っ……──!」
たぶん、僕だけが気が付いた。数秒前から彼を注視していた僕だけが。
花びらが制服に触れた瞬間、裾から覗いた高嶺くんの肌にぞわっと大量の鳥肌が立った。
傍から見ているだけでも、僕まで息を呑んでしまうくらい。それほど、高嶺くんの切実な恐怖心がありありと伝わってきた。
その光景の一部始終を見た僕は、半ば無意識に駆け出していた。
「ね、ねぇ!高嶺くん!」
自分でもびっくりした。僕ってば、なんてことをしてしまったんだ。
でも、こうして動いてしまったからにはもう後戻りできない。そう思ったから、僕は覚悟を決めて下手な笑顔を浮かべる。
高嶺くんの席周辺にいたクラスメイトたちの視線が、一斉にこっちを向くのがわかった。
「……君は」
宝石みたいな碧眼が僕を見上げる。
小さく零れた呟きは、きっと僕にしか聞こえなかったことだろう。
「た、高嶺くん!ぼ、僕と一緒にお昼食べない?えっと、もしよければだけど、えへへっ」
本当に下手くそな笑顔を浮かべている自覚がある。
この場から逃げ出したい気持ちをなんとか堪えて待っていると、やがて耳に届いたのは高嶺くんの返事ではなかった。